VIX短期先物指数に連動するETF/ETNの実質コストについてのまとめ: VXX, UVXY, SVXY and more

VIX短期先物指数に連動するETPはどれもリーマン・ショック以降に上場しているため,不況期を考慮したバックテストができません.現状のS&P500のオプションをもとに算出されたVIX指数とその先物は2004年くらいからありますので,VIX短期先物指数もそれをもとに計算することができます.

ということで今回は,一部では人気のあるVIX短期先物指数に連動するETN/ETF(ETP)の実質コストについてまとめます.実質コストは,VIX短期先物指数に連動するVXXの理論価格をベースとして算出した各ETPの理論価格からの乖離幅を実質コストとしています.

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VIX短期先物指数に連動するETF/ETN

VIX短期先物指数に連動するETPをまとめると以下の表のようになります.

symbolnameleverageindexes
VXXiPath S&P 500 VIX Short-Term Futures ETN1S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Total Return
VIXYProShares VIX Short-Term Futures ETF1S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Excess Return
UVXYProShares Ultra VIX Short-Term Futures1.5 (2)S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Excess Return
TVIXVelocityShares Daily 2x VIX Short Term ETN2S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Excess Return
SVXYProShares Short VIX Short-Term Futures-0.5 (-1)S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Excess Return

VXX,UVXY,SVXYは聞いたことがある方が多いと思いますが,その他にもVIXYやTVIXというものがあります.

VXXは「S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Total Return」をベンチマークにしていますが,その他は「S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Excess Return」を元にしています.なお,「S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Total Return」は「S&P 500 VIX Short-Term Futures Index Excess Return」に3ヶ月ものの米国金利を足した指数です.

UVXYとSVXYは2018年2月27日のクローズをもって,それぞれ2倍から1.5倍,-1.0倍から-0.5倍に倍率が変更になっています.

実質コスト

ここでは,VXXの理論価格の日次リターンとETFの日次リターンの差(乖離幅)を実質コストとします.つまり,

\[
\small
(実質コスト) = (ETFの日次リターン) – (VXX理論価格の日次リターン) \times (ETFのレバレッジ)
\]

です.

一般的にはコストの概念と符号が逆ですが,実質コストが負であればリターンの押し下げ要因になります.

なお,VXXの理論価格は以下のサイトで得られるものを利用しました.

外部サイト VXX historical data and pricing model since VIX futures are available (2004)

評価

評価条件

条件は以下の通り.

  • 直近1年,3年,5年,7年,設定来の5つの期間の実質コストの平均を算出
  • 使用したデータの最大期間: 2004/3/26から2018/9/11
    • データがないものについてはNAと表記
  • 1年の営業日は250日とする
  • 2月27日のクローズから倍率が変わったSVXYとUVXYは,それ以降は倍率を変更後のものに変更して計算

実質コスト

まずは単純に実質コストの平均をみてみます.たまに大きめの乖離が発生しているので,それに大きな影響を受けます.特に,VIXショックの際の乖離幅がすごいため,単純に平均を取ると大きな値になっていることに注意です.

1日あたり

まずは1日あたりの平均実質コストです.単位は%です.

1357MAX
VXX-0.088830.236160.136880.091520.06457
VIXY-0.09140-0.04140-0.03003-0.02748-0.02702
UVXY-0.22755-0.11846-0.09105NA-0.08965
TVIX-0.25771-0.13709-0.11198-0.11743-0.11104
SVXY-0.19148-0.07599-0.05474NA-0.04640

これからわかることをざっとまとめるとこんな感じでしょう.因みに,外れ値除去後も傾向は変わりません.

  • レバレッジが大きくなるほど実質コストの絶対値は大きくなる傾向にあり
  • ボラティリティを売ることを考えると(つまり,VXXならショート,SVXYならロング),レバレッジがプラスであるとマイナス方向に乖離しがちなので有利.一方で,レバレッジがマイナスの場合(SVXY)では,マイナス方向に乖離していることがそのままコストとなって不利に働いている

VIX先物指数はコンタンゴによって減価していく性質がある上に,ETPの実質コストによってさらに減価しやすいというのは素晴らしいですね.

年率換算

単純平均の1日あたりの実質コストを年率に換算すると以下の表になります.単位は%です.

1357MAX
VXX-19.92280.34640.77125.69617.512
VIXY-20.436-9.835-7.234-6.640-6.533
UVXY-43.420-25.646-20.367NA-20.087
TVIX-47.539-29.033-24.430-25.453-24.252
SVXY-38.070-17.307-12.792NA-10.954

冒頭で述べたとおり,VIXショックの影響で大きな乖離が発生していることが原因で,絶対値で,20%から40%程度の乖離が発生しています.

ただ,これでは平常時で生じるコストがどれくらいかがわかりません.そのため,外れ値を除いた実質コストを次にみてみます.

なお,VIXショックで大きな乖離が発生した原因としては,暴落による流動性の低下によってETPを構成する先物等を適正価格で売買できなかったことが主な原因ではないかな,と想像しています.

実質コスト(外れ値除去済み)

外れ値を除去して通常時の乖離をみてみましょう.リターンは多くの場合で正規分布に従っているだろうと仮定し ,外れ値はスミルノフ・グラブス検定(有意水準1%)を再帰的に適用して除去しました.

1日あたり

外れ値を除去した後の,1日あたりの平均実質コストはこんな感じになりました.単位は%です.

1357MAX
VXX0.00092-0.00608-0.00194-0.00832-0.00625
VIXY-0.00186-0.00750-0.01056-0.00883-0.01333
UVXY-0.030490.00094-0.00376NA-0.02143
TVIX-0.031290.00729-0.009080.016530.00376
SVXY0.00094-0.01679-0.01320NA-0.01243

全体の傾向としては,実質コストは価格を押し下げる方向にかかっていることは同じですが,絶対値は小さくなりました.

年率換算

外れ値を除去したあとの実質コストを年率換算にするとこんな感じ.単位は%です.

1357MAX
VXX0.230-1.509-0.484-2.060-1.549
VIXY-0.464-1.858-2.606-2.183-3.278
UVXY-7.3400.235-0.935NA-5.217
TVIX-7.5261.838-2.2444.2180.945
SVXY0.235-4.111-3.245NA-3.061

平常時でも年間で1.5%から5%のコストが,価格の押し下げに寄与していますね.VIXは急騰時のリスクさえヘッジできれば,ショートすることが有利であることの一因だと思います.

まとめ

今回はVIX短期先物指数に連動するETPの実質コストを求めてまとめました.

VIX短期先物指数はコンタンゴによって減価するため下落に大きなバイアスのかかった指数です.その上,今回見てきたように実質コストも価格を押し下げる方向に寄与しています.

このことから,VXXやUVXYのようにVIX短期先物指数のブル型をショートすることが優位な取引だと言えるでしょう.

ただ,実際にVXXやUVXYをショートするにはいろいろと問題があるため,SVXYをロングすることが実運用上では良さそうです.

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