ProShares が提供しているVIX関連のETFである,SVXYとUVXYの仕様が変更になりました.
今回は,この仕様変更の影響について考えてみようと思います.
VIXショックをおさらい
改めて,VIXショックについて振り返りましょう.
2月6日の早朝(日本時間)にVIX指数が50を超える急騰が発生しました.それにともない,VIX短期先物指数の日次リターンの-1倍(インバース)に連動するETNであるXIVと,ETFであるSVXYは90%を超える急落が発生しました.
XIVには,大雑把に言うと「前日終わり値に対して20%以下になると早期償還しますよ」という条項が盛り込まれていた.そのため,XIVは2月20日に早期償還されました.同じく,XIVと同じ商品で東証に上場していたETN(2049)も1144円で早期償還されました.
幸いSVXYは早期償還にはならなかったものの,ProSharesマジックによって救われたところがあるようで,本来通りの運用をしていたらSVXYはなくなってしまった可能性があります.
何がどうなるの?
恐らくProSharesは,以上のような1発退場になるようなリスクを軽減するために,SVXYとVIX短期先物指数の2倍の日次リターンへの連動を目指す UVXYの倍率を抑えようとしたのだ推察します.
具体的には,SVXYはVIX短期先物指数の日次リターンの-1倍から-0.5倍に,UVXYは同日次リターンの2倍から1.5倍に連動するように変更になりました.2月27日のクローズからです.
外部サイト ProShare Capital Management LLC Plans to Reduce Target Exposure On Two ETFs | ProShares
仕様を勝手に変えられるなんてビックリだね
S&P500の日次リターンの0.5倍のETFが出てきてもおかしくない
なお,SVXYやUVXYが上場している NYSE Arca はこの変更を反映した上場審査基準の修正を要請しているものの,その承認は保留中とのことです(執筆時).なんだかんだで承認されるような気がします.
外部サイト FREQUENTLY ASKED QUESTIONS ABOUT CHANGES TO THE UVXY AND SVXY INVESTMENT OBJECTIVES | Proshares
変更による影響は?
今回の倍率変更で次のような影響が考えられます.
- 連動する倍率が従来より小さくなるため,リスクが下がります.ここで言うリスクとは2つの意味があり,ひとつはボラティリティ,もう一つは一発退場リスクです.これについては次の節で詳しく見ます.
- ボラティリティが減った結果,オプションのインプライドボラティリティが減少します.そのため,オプションプレミアムが安くなります.ちなみに,2月27日のクローズで突然連動する倍率が変更になったため,SVXYのインプライドボラティリティは半分程度にUVXYも大きく減少しました.その結果,1日でオプション・プレミアムが1億ドル程度消失したようです.オプションを売っていた人には良いけど,買っていた人は大きく不利なポジションになったと思います.
外部サイト Options traders lost big from tweak in short volatility ETPs: strategists | REUTERS
値動きをシミュレーションする
VIX短期先物指数の過去データを利用して,倍率変更後のものをそれぞれ新SVXYと新UVXYと呼び,それぞれの値動きと日次リターンの分布をシミュレーションでみてみます.
シミュレーションに用いたデータは2012/12/27から2018/3/1までのものを利用しました.
SVXY
まずは,新SVXYの累積リターンを確認します.比較として,SVXYの過去データと,VIX中期先物指数の日次リターンの-1倍に連動するETNのZIVの結果も載せています.
注目すべきは,VIXショック時点の値動きですね.新SVXYだとそのときの下落は-50%程度に抑えられています.まぁ,0.5倍の値動きに連動するので当たり前ですね.
新SVXYとZIVを比べると,VIXショックまでは大きくパフォーマンスは変わらないものの,VIXショック時の下落がチャイナショック時と同程度-20%くらいの下落におさまっています.
このデータをみると,ポートフォリオの一部に使うならZIVの方が良さそうです.もちろん,ZIVはXIVと同様に早期償還条項があるものの,今回のVIXショックでもVIX中期先物指数はそれほど大きな変動がなかったことから,ほぼありえない事象だろうと思います.
次に,日次リターンの累積密度分布を見てみましょう.
SVXYは,ほとんどの日次リターンはプラスマイナス15%程度の範囲に収まっていますが,VIXショックのようなテールリスクがはっせいすると-80%程度のマイナスリターンが発生することがわかります.普通に投資していると,コツコツドカンになるパターンですね.
一方で,新SVXYとZIVの日次リターンの分布ほとんど一致しており,一部の大きいマイナスリターンがある新SVXYの方が分の悪いETPといえるでしょう.
UVXY
次に,新UVXYの累積リターン(パフォーマンス)を確認します.
おもしろい結果にはなっていませんね.単に,倍率が小さくなった分下落幅が小さくなっているのみです.
一方で,日次リターンの累積密度分布をみると少しおもしろいことがわかります.
UVXYと新UVXYの通常時はほとんど変わらず,プラスマイナス20%程度に日次リターンが収まっています.テールリスクに着目すると,新UVXYが150%程度の上昇になっている一方で,UVXYの方は70%の上昇にとどまっています.新UVXYの方が値動きが小さくなっているはずなのに,実際はその逆になっています.これから考えられるのは,SVXYだけではなくUVXYの方にも,ProSharesマジックが起こったということです.
おわりに
今回はVIX関連ETPの中で仕様が変更になったSVXYとUVXYの2つのETFについて,その変更が与える影響について考えました.
その結果,リスク(ボラティリティ)という意味では低リスクになった反面,オプション・プレミアムの源泉のインプライドボラティリティの低下にともなってオプションの売り戦略の旨味が減少しました.一方で,プレミアムが減少したからオプションの買い戦略が良いかというとその分値幅が取れにくくなるため旨味が減ります.簡単なオプションの売買では利益が稼ぎにくい状況になったといえます.
また,新SVXYとZIVはほとんど同等のリターンが得られるということと,テールリスクの大小を加味すると,新SVXYを利用するよりZIVを利用したほうが良いといえるでしょう.
最後に,UVXYは1.5倍になるのはいいけど,SVXYの-0.5倍というのは気になります.-0.5倍ということはETFの資産の半分だけ使って,残りが完全に遊んでしまうような気がします.実際はどうするのでしょうか.
私気になります!
コメント
参考になりました。
ありがとうございました。