S&P500のレバレッジドETFってどうなのよ: 実質コストと期待リターン

レバレッジドETF(LETF)に魅せられてしまった,自称インデックス投資家(闇堕ち)のhassです.

インデックス投資家としては,ETFやインデックス型投資信託がベンチマークとしている指数にちゃんと連動しているか(トラッキング・エラー)や,経費率や信託報酬などを含む実質コストが気になりますよね.

また,よくある懸念として,相場が停滞しているとLETFは減価するんじゃないか,という主張もちらほらみかけます.レバレッジド・ポートフォリオを提唱されている hiroakit さんもこれらのLETFに対する懸念に対して反論されています.

外部サイト レバレッジETFに寄せる信頼と疑念 | ROKOHOUSE シーゲル流ロジカル投資術

せっかく闇落ちしましたので,インデックス投資家らしくLETFの実質コストを調べるとともに,実質コストからLETFの期待リターンを考えてみたいと思います.

なお,実質コストとしてそのETFを保有している際のコスト(経費率やトラッキング・エラー)のみを考慮します.売買手数料や為替手数料,ETFのプレミアムやディスカウントなどなどは無視します(´ー`)

修正 2018/2/24: LETFの乖離幅の分布のスケールを修正しました.

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S&P500レバレッジドETF

S&P500の日次リターンのn倍の値動きをするように設計されたETFはこんな感じです.

ティッカー名称倍率経費率
SSOProShares Ultra S&P50020.35
SPUUDirexion Daily S&P 500 Bull 2X ETF20.87
UPROProShares UltraPro S&P50030.95
SPXLDirexion Daily S&P500 Bull 3X ETF30.94

LETFにはレバレッジが2倍のものと3倍のものがあります.しかし,日本のネット証券から投資できるのはSPXLのみです.他のLETFに投資するさいには Interactive Brokers証券などの海外証券会社に口座を開く必要があります.

パフォーマンス

まずはLETFの設定来のパフォーマンスを確認します.公平な比較のため,LETFが設定された月日がもっとも新しいものに合わせて比較します.

LETFは配当込のパフォーマンスを考えます.また,連動すべき指数(ベンチマーク)としてはS&P500 Total Returnの日次リターンにレバレッジ倍率をかけたものとします.

したがって,ペンチマークとLETFのパフォーマンスの差が累積の実質コストに相当します.

レバレッジ2倍

レバレッジ2倍のLETFのパフォーマンスはこんな感じです.

SSOとSPUUはともにベンチマークから大きく乖離していることがわかります.とくに,SPUUの乖離が大きいことがわかります.

とはいえ,2014年5月に投資した元本が2018年2月には倍になっています.S&P500 Total Returnのリターンの倍です.十分ですね.

レバレッジ3倍

一方でレバレッジ3倍のLETFのパフォーマンスはこんな感じです.

UPROとSPXLもベンチマークから大きく乖離していますね.若干ですが,UPROの方が乖離が小さいようにみえます.

乖離していても,元本から10倍になっているので,リターンの大きさに比べたらベンチマークからの乖離とかどうでもよくなっちゃいますね(´ー`)

ベンチマークからの乖離

ここからはもう少し詳しく,日次リターンの乖離を見ていきます.

日次リターンからの乖離の分布を求めるにあたって,ベンチマークとの絶対誤差を用いています.日次リターンは率なので,株価が上がるにつれ,誤差が広がるとかないと考えにくいと思います.ということで,絶対誤差を利用しています.

レバレッジ2倍

レバレッジ2倍のLETFの日次リターンの乖離の分布が以下になります.

あきらかにSPUUはSSOより乖離のバラ付きがおおきいですね.もともとSPUUは経費率が高い上に,こんなにばらつくとファンドマネージャーがんばれってなりますね.

レバレッジ3倍

レバレッジ3倍のLETFの日次リターンの乖離は以下のようになります.

UPROとSPXLはほとんど同じ分布になっていますね.気持ち,UPROの方がプラス方向にバイアスがかかっているようにみえます.

統計量

日次リターンの分布の各種統計量をまとめるとこんな感じになります.

SymbolMeanMedianStdDevMinMax
SSO-0.0000739-0.00009810.00084117-0.00585150.00582413
SPUU-0.0001227-0.00004550.00655795-0.07474710.08397167
UPRO-0.0001003-0.00005510.00219375-0.03577440.03371128
SPXL-0.0001181-0.00011590.00185734-0.01554480.01386392

SPUUは論外として,レバレッジが小さいほうが乖離が小さいことが数字上でもわかりますね.

UPROとSPXLを比べると,UPROの方が乖離の幅が大きくなることがあるものの,全体としてはベンチマークからの乖離が小さいことがわかります.経費率はUPROの方がSPXLより若干高いことを考えると,ファンドマネージャーが腕が良いんですかね(´ー`)

ちなみに,ベンチマークとして採用している指標の違いを加味すると,今回のSPXLの日次リターンの平均乖離とhiroakitさんが求めた値はだいたいあっています.
外部サイト レバレッジETFはどれほど乖離するのだろうか? | ROKOHOUSE シーゲル流ロジカル投資術

期待リターン

さて,求めた日次リターンの乖離を用いて,ベンチマークの年利に対する期待リターン(年率)を求めます.

なお,1年の営業日数を250とし,年利を日次リターンに直しました.

平均的に年利が1.5%ぐらいであれで,レバレッジ3倍のLETFはレバレッジをかけていない指数と同等のリターンになります.つまり,配当込みのVOOが1.5%の年利になるとき,UPROやSPXLも1.5%の年利になるということです.

一方でレバレッジ2倍のLETFはレバレッジをかけていない指数が期待できる年利が,レバレッジ3倍より大きくないと割にあいません.SSOであれば年利2%でようやくとんとん,SPUUにいたっては年利3%ぐらい期待できないといけません.

米国株式がこれからも平均6%以上の年間リターンを維持できるならLETFを使わない手はないと思います.私はこれからも米国は平均6%くらいの成長はするのではないかと思っているので,LETFにベットします.

一方で,米国はもうダメだ,これからは配当込みでも年間1%以下しかリターンが見込めないと判断するなら,LETFを使う意味はありません.まぁそんな状況になってしまったら,世界のルールが変わったときだと思いますから,何をやってもダメでしょうね(´ー`)

以上の結果から,LETFを利用して報われるためには,単にプラスリターンをもたらす資産であるというだけではなくて,少なくとも平均年間リターンが1.5%から2%くらい見込める必要があります.そういう意味では,株や債券といった資産クラスなら,LETFを使った長期投資は理にかなっていると思います.一方で,為替や金のLETFは不適切でしょう.

「LETFは減価する」について

以上のように,LETFに投資することに意味が出てくるのには,もとの指数の期待リターンがある程度ある必要があります.そうしないとLETFはもとの指数に負けてしまいます.

このことを指して「LETFは減価する」と主張するのは,半分Noで半分Yesだと思います.

  • 期待リターン0の指数に対するレバレッジETFは期待リターンがマイナスになる → これは,単に株式のリターンは複利で効きますよという話でLETFの価値が下がっているわけではない
  • 実際,ある程度の期待リターンがないともとの指数に勝てないじゃないか → 実質コストはレバレッジをかけないETFより大きいため,そういう意味でLETFは減価というのは正しい.しかし,実質コストによってリターンが押し下げられるのは,大小はあるもののレバレッジをかけない場合と同じなので,LETF特有の話ではない.

おわりに

今回はインデックス投資家らしく,LETFの実質コストと日次リターンの乖離の分布を確認し,LETFを利用した際の期待リターンについて簡単にまとめました.

その結果,レバレッジをかけていないもとの指数の年間期待リターンが,レバレッジ3倍の場合には1.5%から2%以上ないとLETFはコスト負けすることを確認しました.これまで通り,米国株が平均6%以上の年間リターンを見込めるなら,LETFに賭けない手はないと思います.

とはいえ,レバレッジ3倍であれば1日で34%以上下落するとなくなるリスクがあるし,今回の実質コストはここ10年の低金利が反映されている結果かもしれません.これから金利が上昇するとLETFのコスト増につながり,旨味がなくなるかもしれません.

未来についてはわかりませんが,過去と現在のデータからは,利益を欲しているのにLETFを使わない理由はないように思います.しらんけど(´ー`)

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