ブル型ETFの買いとベア型ETFの売り,どちらが有利か?: リターン分布から考える

S&P500のような株価指数には,SPYのようなETFを通して投資することができます.世の中には,その株価指数と逆の値動きをする,ベア型ETFというのもあります.ETFは買うこと(ロング)と売ること(ショート)もできる1空売り,CFD,オプションなどを使って実現できます.ので,通常のETFをロングするのとベア型ETFをショートすることもできます.これらに差はあるのでしょうか?

ということで今回は,通常のETF(以降,ブル型ETF)をロングするのとベア型ETFをショートすることの有利・不利について,モンテカルロシミュレーションを通じて確認してみました.

結論としては,

  • ベア型ETFをショートすると,ブル型ETFをロングするより,リターンの中央値が高くリターンの分散も小さくなる
  • ベア型ETFのショートは大勝ちしない一方,確率的には低いが大負けする危険性がある.
  • ボラティリティが高い資産には,ベア型ETFのショートが特に有利.

となります.ちなみに株価指数CFDを使ってベア型ショートを検討も以前しました.

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ブル型ETFのロングとベア型ETFのショートのコスト

投資の仕方として空売りとかCFDを用いることを考えると,ブル型ETFのロングとベア型ETFのショートのコストは以下の表のようにまとめることができます.+と-はそれぞれ利益が増減に対応しており,NAはないことを示しています.

ブル型ETFのロングベア型ETFのショート
配当+
経費率+
売買手数料
BID/ASKスプレッド
金利2レバレッジをかける場合+
貸株料NA

値動き以外の差では,配当の有無や経費率の大きさ,金利と貸株料の差がリターンに影響してきます.定性的には,高配当で経費率が小さく,貸株料も大きいETFの場合は,ショートするのは不適格ですね.

検証方法

以降では,指数の値動きのみに着目して,保有日数毎にリターン分布がどうなるかを確認します.

2000年1月1日から2020年2月11日までのSPYの終値から,日次リターンの平均と標準偏差を求め,日次リターンはそれらをパラメータとする正規分布とみなして累積リターンを求めました.例えば,最初に100万円投資して,1年経ったときに120万円になっていたとしたら,リターンは0.2というように計算しています.ショートの場合は,100万円分空売りして,1年経ったときに80万になっていたら,リターンは0.2というようになります.

乱数を振って10000回のモンテカルロ・シミュレーションをそれぞれの設定において行っています.

保有日数によるリターン分布

まずは,保有日数によって累積リターン分布がどうなるかを確認します.ここでは,1ヶ月を20日とし,保有日数を1ヶ月から5年まで変化させました.

ベア型ETFをショートをすると,リターン分布の中央値が高くなっており,保有日数が長くなるほどリターンが正になる部分が増加していることがわかります.一方で,ブル型ETFをロングすると,保有日数が長くなれば大きなリターンが得られる場合もありますが,多くがほどほどのリターンであることがわかりますね.ただし,ベア型ETFをショートする場合は,最大リターンが1になるため3株価100円の株を1株空売りしたときの最大利益は100円.,保有日数をあまり長くしてもうれしくはありません.

ここで,リターンの期待値,中央値および標準偏差が保有日数に応じてどのように変化するのかグラフで確認します.

期待値は保有日数が長くになるにつれて両方とも増加しますが,ベア型ETFをショートした場合ではその増加が緩やかです.これは,ブル型ETFをロングする場合と違って大勝しないからですね.

一方で,中央値に着目すると,ベア型ETFをショートしたほうが良いことがここからでも確認できます.ただし,720日(3年)保有するまではベア型ETFのショートとブル型ETFのロングで差が広がっていますが,1200日(5年)保有するとその差が縮小しています.これは,ベア型ETFのショートの最大リターンが1と決まっており,その上限に近づいてきたためです.

最後に標準偏差をみると,ベア型ETFをショートする場合は標準偏差の増加が緩やかです.安定したリターンが得られやすいことを示唆しています.

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ボラティリティによるリターン分布の影響

次に,ボラティリティの影響について見てみましょう.SPYの日次リターンの期待値をそのままで標準偏差を0.1倍から5倍まで変化させてみました.なお,保有期間は120日(6ヶ月)としました.

ボラティリティが大きくなるにつれて,ベア型ETFをショートした場合の中央値はプラス方向へ,ブル型ETFをロングした場合の中央値はマイナス方向へ向かっていることがわかります.ボラティリティの高さはベア型ETFのショートに有利で逆にブル型ETFのロングには不利に働きます.ただし,ベア型ETFをショートする場合には大負けする場合も低確率ですが存在することに注意が必要です.逆に,ブル型ETFをロングする場合は大勝する可能性がわずかにあります.これは単なる宝くじですけど.

最後に,リターン分布の期待値,中央値および標準偏差を確認します.

期待値と標準偏差に関しては,両者にほとんど差はありません.わずかにベア型ETFをショートする方が小さいというぐらいです.

中央値に関しては,上で述べたとおり明確な違いが確認できますね.

おわりに

今回は,SPYの日次リターンの期待値と標準偏差をもとに,ブル型ETFをロングする場合とベア型ETFをショートする場合について,保有日数とボラティリティによる影響を確認しました.

結果を整理すると次のようになります.

  • ベア型ETFをショートすると,ブル型ETFをロングするより,リターンの中央値が高くリターンの分散も小さくなる
  • ベア型ETFのショートは大勝ちしない一方,確率的には低いが大負けする危険性がある.
  • ボラティリティが高い資産には,ベア型ETFのショートが特に有利.

といった感じで,ベア型ETFをショートすることは有効だと思います.ただし,大負けする可能性があることや継続的にリターンを得るためには売り増ししないといけないことが問題になります.

これらの問題については,オプションを使えば概ね解消するので,レバレッジをかけるついでにベア型ETFをオプションでショートするのが良いんじゃないかなって思います.

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