積立投資: ボラティリティが高いレバレッジドファンドに有効?

一括投資と積立投資はたびたび話題にのぼるところですが,定期的な給与が投資の原資になるサラリーマンにとっては積立投資になることは致し方ないことです.また,株価がイケイケドンドンと高くなっているときには,レバレッジをかけた投資の人気が高くなります.中には,レバレッジドETFやレバレッジド投信はボラティリティが高いから積立投資が有効だといった趣旨の話があります.「ツミレバ」とかですね.

本当にそうなのでしょうか?やっぱり定量的に特性を把握したうえで,実践していきたいところです.

ということで今回は,モンテカルロシミュレーションで生成した10年分のリターン(5000通り)をもとに,レバレッジドファンドを積立投資すると有効なのかを検証してみました.

その結果,日次リターンにレバレッジかけたものを積立てることは,レバレッジなしのものを積立てるよりは良いリターンが得られる可能性が高いものの,レバレッジなしのものを一括投資するより劣る程度のリターンとなる可能性が半分くらいあることがわかった.

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S&P500の日次リターン分布

みんな大好きS&P500をベースに考えてみましょう.

まずはS&P500の日次リターンの分布を確認してみましょう.2000/1/1から2021/4/11までの日次リターンからカーネル推定(kernel)したものと,期待値・標準偏差をもとに正規分布(gaussian)に当てはめたものです.

今回は値動きだけに興味があるので,リターンには配当が含まれていないことに注意してください.

よく正規分布で当てはめられますが,実際のリターンはより尖った分布になっていますね.また,若干マイナス方向の裾が高くなっています.

評価

S&P500のリターン分布(カーネル推定)をもとに,積立投資を10年行った場合のトータルリターンを考えていきます.もちろん前提としては,日々のリターンに記憶がなく,独立した試行であることを置いています.つまり,テスラ株がPER2000だからといって株価が下げやすいとかはないということです.

方法

以下,方法です.

  1. モンテカルロシミュレーションで,S&P500のリターン分布(カーネル推定)に基づいた日次リターンを10年分(2400日分)生成.1ヶ月を営業日で20日とする.
  2. 積立方法として,毎日,1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月を行い,比較として一括投資を用いる
    • 総投資金額は一定1例えば,毎日2000円積み立てた場合,1ヶ月毎の積み立てなら40000円,一括投資の場合480万です
  3. レバレッジは2倍,3倍を想定し,1で求めた日次リターンにその比率をかけたものを生成する.このとき,レバレッジコストである金利は考えない.

積立投資 vs 一括投資

トータルリターンの確率分布

積立投資をした場合と一括投資した場合の10年間のトータルリターンの分布です.0はリターンが0で,1は原資の2倍になっていることを表します.

毎日積立(per 1day)と6ヶ月毎に積立(per 6months),そして一括投資(bulk)を比較すると,一括投資は裾が広い分布になっていることがわかります.一方で積立の頻度が短いほど,尖った分布になることがわかります.つまり,積立をすることで将来得られるリターンの不確実性が小さくなっている,ということですね.ただし,大きく元本割れしないかわりに,その分だけ大勝ちする可能性も低くなります.

ちなみに,5000回のうち元本割れした割合は,毎日積立で24.64%,一括投資で23.16%でした.積立の方が元本割れしにくいというわけではなさそうです.

ついでに,5000回のうち,一括投資と比較して,トータルリターンが勝っていた場合がどれくらいあるのか,調べると以下のようになりました.

per 1dayper 1monthper 3monthsper 6months
28.22%28.2%28.36%28.64%

一括投資が勝っていたのが7割ということですね.若干ですが積立頻度が短いほど一括投資に負ける確率が高くなる傾向にありますね.

結局の所,一括投資の方が期待値がプラスなゲームに多くの資金が長く参加しているから,それだけリターンが大きくなる可能性があるということですね.

トータルリターンの統計量

トータルリターンの統計量を表にまとめると以下のとおりです.

meanmedianminmaxsdmean/sd
per 1day0.4140.3011-0.61086.18260.58630.7062
per 1month0.41770.3026-0.61526.23520.5910.7068
per 3months0.42550.307-0.62116.35660.6010.7079
per 6months0.4370.3139-0.62786.63650.61610.7094
bulk0.93090.5868-0.867619.50011.37020.6794

積立投資の場合中央値は0.30強ですが,一括投資は0.60弱のトータルリターンです.シャープレシオレシオではありませんが,不確実性あたりのリターンということで,期待値を標準偏差で割った値も載せています(mean/sd).積立する頻度では不確実性あたりのリターンもほぼ同じですが,一括投資の場合は悪化するというのがわかりますね.

まとめ

以上をまとめると,

  • 積立投資にはリターンの不確実性を減らす効果がある
  • 積立投資には元本割れを防ぐ効果はない
  • リターンの不確実性は増すものの一括投資の方がリターンが高い(7割の確率で積立より高いリターンになる)

です.

ボラティリティが高いものに積立は有効なのか?

トータルリターンの統計量

日次リターンに2倍のレバレッジをかけた場合のトータルリターンの統計量はこんな感じ.

meanmedianminmaxsdmean/sd
per 1day1.0790.4331-0.824357.1122.33280.4625
per 1month1.090.4348-0.829957.76382.35880.4621
per 3months1.11320.4397-0.835959.06992.41440.4611
per 6months1.14790.4522-0.852663.74262.50430.4584
bulk2.79680.6964-0.989295.018.20050.3411

2倍のレバレッジをかけた場合はレバレッジなしの場合と大きな傾向はかわりませんね.積立の頻度を長くすると中央値は改善するけど,その分リターンの不確実性が高まります.

また,日次リターンに3倍のレバレッジをかけた場合のトータルリターンの統計量はこんな感じ.

meanmedianminmaxsdmean/sd
per 1day2.19890.3217-0.9128407.9539.2190.2385
per 1month2.2250.3241-0.9184413.7089.35240.2379
per 3months2.2790.3286-0.923421.4429.59330.2376
per 6months2.36290.3381-0.9384471.66510.23420.2309
bulk6.82130.202-0.99943009.3852.40750.1302

日次リターンに3倍のレバレッジをかけた場合は,一括投資より積立投資の方が中央値が改善していますね.ボラティリティが高いことの悪影響を抑えられているということでしょう.ただ,中央値に着目すると,レバレッジなしと日次リターンに3倍にレバレッジをかけたものは同じくらいになっています.レバレッジをかける意味があるのかな?と思います.

レバレッジなし一括投資を基準とした勝率

次に視点を少し変えて,レバレッジなしで一括投資した場合を基準に,それより大きいリターンを得た割合(%)を表にまとめると,以下のようになりました.

per 1dayper 1monthper 3monthsper 6monthsbulk
x128.2228.228.3628.64
x24343.3843.9644.754.5
x342.742.8643.143.541.74

レバレッジなしの一括投資を上回った割合が5割以上なのが2倍レバレッジの一括投資のみですね.それ以外は6割近く負けてます.3倍レバレッジをかけてリスク取るほどではないように思います.

一括投資できる資金があるのなら,レバレッジなしで一括投資するのが余計なコストも発生せずによいかもしれませんね.そうではない場合,程々にレバレッジをかけたものを積立することには意味がありますね.毎月積み立てする場合,レバレッジなしのものより日次リターンに2倍のレバレッジをかけたものを積み立るほうが,レバレッジなしに一括投資した場合より15ポイント程度勝てる可能性があがります.ただし,日次リターンに3倍のようにさらにボラティリティが高いものに関しては,リスクの割に効果が下がるので,ほどほどのレバレッジに抑えるのが良さそうです.

一括投資を基準とした利益差

さきほどは,一括投資と比べて勝率を見てみましたが,一括投資と積立投資の利益差も見ていきましょう.同じ倍率の一括投資と毎月積立と比べています.例えば,x2はレバレッジ2倍の結果を,一括投資と毎月積立で比べています.

0より右側は積立投資の方が一括投資よりリターンが高かった場合で,0より左側はその逆になります.レバレッジが高いほど分散が大きい利益差分布になっています.レバレッジが高くボラティリティが高いほうが,一括投資より利益が大きくなる場合があると言う意味で,積立投資の方が有効です.しかし,同時に利益に対する不確実性も増しています.やはりボラティリティが高すぎるものに対しては,ギャンブル性が高まるので避けたほうが良いでしょう.

まとめ

以上をまとめると,

  • 積み立てるなら,レバレッジなしを積み立てるより日次リターンにレバレッジをかけたものに積み立てた方が,レバレッジなしを一括投資した場合を超えるリターンが得られる可能性が高まる
  • ただし,レバレッジはほどほどにしないと効果が薄れるうえに,レバレッジが高い(と同時にボラティリティが高い)と利益の不確実性が高いことに注意

です.

おわりに

今回は,レバレッジドETF(や投信)を念頭に積立投資を行うことが有効かどうかを,シミュレーションベースで見てみました.

その結果,レバレッジをかけたものの場合,積立投資をすることで,中央値を改善できるものの,一括投資できる資金があるのなら,レバレッジなしのものに一括投資したほうが有利です.ただし,積立投資をするなら,ほどほどのレバレッジをかけたものを対象にしたほうが,レバレッジなしのものより有利です.

つまり,「レバレッジなし一括投資 > ほどほどレバレッジあり積立投資 > 高レバレッジ積立投資 >> 高レバレッジ一括投資」です.

したがって,レバレッジかけて一攫千金を狙うためにレバレッジをかけたものを積立てるというよりは,レバレッジなしで一括投資したぐらいのリターンを得るには有効といったところでしょう.

とはいえ,個人的には,積立をするにしても,レバレッジドバランスファンドのような,シャープレシオが高いものにレバレッジをかけたファンドにしたほうが良いんじゃないかな,と思っています.

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