グローバル3倍3分法ファンドのコロナショック時の検証

これまでの好調な株式相場を受けて,どんどん純資産額を増やしていたグローバル3倍3分法ファンド(通称: グロ3)ですが,新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックに端を発した世界同時株安(コロナショック)の影響で,グロ3に投資していた投資家すべてが含み損になりました.

2018年末の世界同時株安のときは,グロ3は意外と健闘していたため,今回も大丈夫だろうと思っていた投資家に対して大きなショックを与えたと思います.

ここで気になるのは,単に値動きが大きかったということではなく,その値動きに対して投資家が払っているコストは許容できる程度なのか,ということです.例えば,相場が急変したときに実質的なコストが大きく膨れあがって資産を大きく毀損するのであれば,投資先の商品として再考が必要でしょう.特に,グロ3は先物を利用した運用を行っているため,今回のような相場でうまく運用できているのか,という点が気になります.

ということで今回は,他のファンドとの比較および擬似的に作ったグロ3指数との比較を通して,グロ3が変な動きをしていたのかどうかを確認していきます.

結論としては,今回の急落では特別に大きなコストが発生しているわけではないといえると思います.

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パフォーマンス

まずは,グロ3と他の投資信託のパフォーマンスを確認します.グロ3が設定された2018年10月4日から2020年3月23日までについて,8資産バランスファンド(Balance(8))と4資産バランスファンド(Balance(4)),先進国株式ファンドと比較します.特に断りがない限り,投資信託にはeMAXIS Fatのデータを利用しています.

2020年2月末まで順調に増加していたグロ3ですが,3月23日にはバランスファンド(4資産)と同程度の累積リターンになるまで下落しています.今まで買った人みんなが損している状況です.とはいえ,レバレッジをかけてないバランスファンドも大きく下落しているので,レバレッジをかけているグロ3だから特別ダメというわけではないと思いますね.また,先進国株式ファンド100%だった人は,ボラティリティが大きい割にリターンも小さくて踏んだり蹴ったりですね.

検証

さて,ここから実際にグロ3を検証していきます.

設定および条件

グロ3は複雑な投信で,仮にグロ3が理想的に運用できたとしたときに連動するであろう指数を作るのは,個人ではなかなか難しいです1お金を出してデータを購入したらある程度できそうですが,弱小ブロガーには厳しいです..ということで,えいやと思いっきり簡単化して,グロ3指数を作って,それと実際のグロ3の日次リターンを比較したいと思います.以降,その指数のことをグロ3指数と呼びます.

グロ3指数を作るに当たり,以下の投信と指数のデータを使いました.

  • TOPIX: eMAXIS TOPIX
  • 先進国株式: eMAXIS 先進国株式ファンド
  • 新興国株式: eMAXIS 新興国株式ファンド
  • JREIT: eMAXIS 国内リートファンド
  • 先進国REIT: eMAXIS先進国リートファンド
  • 日本国債: S&P 10-Year JGB Futures Total Return Index
  • 米国債: S&P Ultra 10-Year U.S. Treasury Note Futures Excess Return Index
  • 英国債: S&P U.K. Gilt Bond Index
  • 豪州債: S&P/ASX Australian 10-Year Treasury Bond (Dollar Value) Futures Excess Return Index
  • 独国債: S&P Euro-Bund Total Return Index

各資産の重みをグロ3の固定比率で,毎日リバランスしたものとして,グロ3指数を計算しました.債券先物は現地通貨建ての指数を使用していますが,円建てに変換せずに計算しています2実際のグロ3では,為替の影響は債券先物の証拠金と評価損益に対してあります.ここでは,その影響は軽微だとみなして,簡単化していることになります.

各資産の日次リターン

グロ3指数と実際のグロ3を比較する前に,各資産の日次リターンについて,2020年2月から3月23日までの変化を確認します.

日次リターン(左上: バランスファンド,右上: 株式ファンド,左下: REITファンド,右下: 債券指数)

全体的に,2月中旬までは,各資産ともにそれほど大きな変化はありませんが,2月終盤から徐々にいずれの資産もボラティリティが大きくなっています.株式では,今回は新興国株式より先進国株式の方がボラティリティが大きくなっているのが少々意外です.凄まじいボラティリティなのがREITです.JREITだけではなく,先進国REITも変わらないボラティリティ.それに比べて,やっぱり債券の値動きは小さいですね.

さて,グロ3とその他のバランスファンドを比較してみましょう.意外といえば意外ですが,2月の中旬までは各ファンド間でほとんど同じ値動きをしています.それ以降,特に3月中盤では,他のバランスファンドに比べて,グロ3は大きく下げる上に戻りも他のファンドと同程度になっています

ここで気になるのは,この現象がグロ3が先物を利用していることなどのその商品の特殊性によって生じたものなのか,ただ単にバランスファンドに含まれた資産の時価の変動で説明できるものなのかです.前者であれば,やっぱり先物を利用するなんて危険なんだ!というような話3例えば,SPXLやTECLのような日次リターンにレバレッジをかけた商品だと,日次といえども瞬間瞬間で原指数の目標レバに追従するように運用するため,コストが大きくなる傾向にあります.特にボラティリティが大きい状況では.になりますし,後者であれば,(資産配分に納得しているなら)何ら問題ではないわけです.

グロ3は暴落時に変な動きをしたのか?

ということで,条件のところで書いた方法で作ったグロ3指数とグロ3の日次リターンを比較します.

日次リターンの分布(左図: 密度分布,右図: 散布図)

左図はグロ3指数に対して実際のグロ3の日次リターンがどれくらい差があったのかを密度分布にしています.2020年2月の前後のデータで分けています.値が0より大きければ,グロ3がグロ3指数より大きなリターンがあったということです.右図は,横軸にグロ3の日次リターンを縦軸にグロ3指数の日次リターンをプロットした散布図になっています.左上の領域がグロ3指数よりグロ3が下振れた場合で,右下の領域がグロ3指数よりグロ3が上振れた場合です.

まずはグロ3指数が妥当であるかを簡単にチェックします4先に書いたように,グロ3自体は複雑な投信で理想的な運用ができたときの動きとなるような指数を作ることは難しいです.そのため,できるだけグロ3が使っているような投信なり指数のデータを引っ張ってグロ3指数を作っています.そもそもグロ3指数が全くおかしいものであれば,コロナショック時のグロ3の動きがおかしいのか判断できないので,そこを確認するということですね..右図には,すべてのデータを用いて線形回帰をした線を引っ張っています.この線の係数がほぼ1で切片もほぼ0ということから,グロ3指数によってグロ3の日次リターンをよく表せていると言え,x=yの線からぶれた分を運用コストとして見なしてもよさそうです.

ということで,コロナショック時のグロ3の値動きがおかしかったのかどうかをみていきます.左図から,2020年2月以降とそれ以前の分布では,2月以降の方が誤差が大きくなっていることがわかります.平常時で0.01くらいの間で動いていたものが,0.02ぐらいに大きくなったという感じでしょうか.指数に厳密に追従することを望むような(狂信的な?)一部のインデックス投資家には,この振れ幅は許容できないかもしれません.ただ,大きく下振れするようなコストとして現れていない以上,私は問題ないかなぁと考えています.

本来なら,他のバランスファンドついても,理想的な運用した場合の指数と比較をして,平常時とコロナショック時の誤差の変化がグロ3と比べてどの程度なのかも見る必要があります.ただ,めんどくさいので,他の方に譲ります.

おわりに

検証するタイミングとしては,まだまだ早いかもしれませんが,コロナショック時のグロ3の動きにおかしなことはなかったかを確認しました.結論としては,誤差も大きくなったけど,それが特別にコストとして大きくのしかかってくるようなのは見られなかったです.もちろん,こういうことに関しては,きっちり日興AMさんがレポートなりで受益者に対して示す必要があると思います.

最後に蛇足かもしれませんが,グロ3や普通のバランスファンドに限らず,リスク許容度に応じてリスク資産の額を一定に保つことが良いと思います.ライフサイクル投資術で出てくる時間分散です.で,リスク許容度は比率ではなくて絶対的な額として捉えたほうがいいと思います.例えば,3000万資産ある人が,平常心を保てるのが300万の減少までとしましょう.ざっくりとバランスファンドで半値くらいになるとおもっているとすると,そのファンドには600万までしか投資できません.仮に増えて650万になった場合は売却して600万に揃えるし,減った場合は追加して600万円に戻す,という感じです.よく言われる複利で増加しますというのを放棄していることになります.この例で,代わりにグロ3を使う場合は,単純にはリスクに晒す金額が3倍になるので,投資可能なのは200万までです5実際は,グロ3のレバレッジなし商品はないので,.結局グロ3のようなレバレッジをかけた商品を使う場合は,自身のリスク許容度がレバレッジをかけていないファンドではまかないきれないぐらい大きい場合でしょう.

いい機会なので,今一度,全体としてご自身のリスク許容度範囲内に収まっているかどうかを確認した方が良いと思います.

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