レバレッジドバランス投信のリスクについて: 敵を知り適切に怖がろう

2017年末頃,一部の個人投資家界隈でレバレッジETFを用いたレバレッジド・ポートフォリオが流行りました.その後,2018年10月に日興AMから先物を利用してレバレッジをかけたグローバル3倍3分法ファンド登場し,2019年2月頃から破竹の勢いで純資産額が伸びていきました.そして,ウルトラバランス世界株式という,新たなレバレッジドバランス投信が登場してきました.

そろそろ相場の天井でリセッションがそろそろ起きるのでは?と言われている状況において,このようなレバレッジをかけた投信がでてきたということで,相場の天井感が高まってきています.

一方で,現代ポートフォリオ理論に基づき,広く分散された株式や債券などの資産を組み合わせたリスク対リターン(シャープレシオ)が高いポートフォリオを実現する,ということは古くからなされています.そのようなポートフォリオに対して,レバレッジをかけてリターンを強化した投信がレバレッジドバランス投信と呼べるでしょう.

シャープレシオの高いポートフォリオに対してレバレッジをかける点が,一般的なレバレッジ投信と違うところです.そのため,レバレッジをかけているから危ない!と一言では一蹴できないと思います.

とはいえ,レバレッジをかけること自体は確かにリスク要因となるので,レバレッジをかけることでどのようなリスクがあって,それがどれくらい影響でどれくらい起きそうかということを考えておくのは大事なことだと思います.

ちょうど以下の記事で,たわら男爵さんがグローバル3倍3分法ファンドについて懸念点を書かれていたので,今回はそれをベースに考えていきたいと思います.

株と債券の同時安の時代が到来(byGPIF) - 40代でアーリーリタイアしたおっさんが   たわら先進国株でベンツを買うブログ
インデックス投資信託を活用した長期投資の極意について、投資歴13年のおっさんが熱く語ります。

結論としては,過度にリスクを怖がる必要はないけど,レバレッジドバランス投信の前提がくずれてきていないかは定期的にチェックする必要があると思います.

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問題提起

たわら男爵さんの記事の該当部分を引用します.

我々は全ての資産クラスで損失を出し、同様に為替差損も被った。
これはこれまでに起きたことがない状況である。


という今の状況は、まさに

「最大のリスクは、分散効果が働かず、組み入れている資産すべてが値下がりすることだ。レバレッジにより、値下がりの影響も3倍になるだけでなく、レバレッジにかかるコストもリターンを悪化させる。」

という状況なのではないかとの懸念を払拭することができません。


レバレッジ投資信託が長期投資向けの商品として根付くかどうか。商品のリスクと特性を、投資家にしっかり理解してもらえるかどうかがポイントになるだろう。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1908/01/news019_4.html

との記載のとおり、グローバル3倍3分法が投資信託の分野で新たな地位を獲得するためには、全損リスク、レバレッジコスト、売買コスト、自然減価率、株と債券の同時安にどの程度まで耐えられるのかについて、懇切丁寧な説明をしなければならないと考えます。

株と債券の同時安の時代が到来(byGPIF) | 40代でアーリーリタイアしたおっさんがたわら先進国株でベンツを買うブログ
(赤字は hass による強調)

ということで,全損リスクレバレッジコスト売買コスト減価株と債券の同時安の5つについて,例をあげながら考えておきたいとおもいます.

レバレッジドバランス投信の懸念点

グローバル3倍3分法ファンドを念頭において,それぞれの懸念点について考えますが,基本的にはレバレッジドバランス投信の一般的な話になっていると思います.

レバレッジドバランス投信では,レバレッジをかけるために先物が利用されます.例えば,グローバル3倍3分法ファンドでは,純資産額の20%を原資にTOPIXと先進国債券+αの先物に投資しています.

この先物を用いているということがレバレッジドバランス投信のリスクにつながっています.

少なくとも日次でリバランスされると思うと,下落率の影響を考えるのは1日の下落率を考えれば十分です.したがって以降の検討では,特に断らない限り,1日の変動幅について議論しています.

全損リスク

まずはグローバル3倍3分法ファンドの先物投資部分の配分を確認しましょう.

出典: グローバル3倍3分法ファンド(1年決算型) 交付目論見書 | 日興アセットマネジメント

グローバル3倍3分法ファンドは,日本株(TOPIX)を20%,各国国債を200%分の合計220%を先物で運用しています.この先物部分の変動によって残りの80%部分を超えて全損するかどうかを考えたいと思います.

以降では段階的にまずは,現金部分が足りなくなるリスクを考えたのちに,それを踏まえて全損リスクを考えていきます.

証拠金用の現金不足の発生リスク

現金の部分が20%ですので,先物部分の負の方向の変動幅が20%を超えると現物資産を売却して証拠金として差し入れる必要がでてきます.もちろん,20%すべてが負の方向の変動幅のバッファとして使えるわけではありませんが,今回の検討では無視します1グローバル3倍3分法ファンドでは3%を証拠金としていれているようです.最小限の証拠金はもっと少ないです.

20%を超えるような下落となるような例をいくつか考えてみましょう.

まず,1つの資産が下落した場合を考えます.TOPIXは20%で他の債券がそれぞれ40%の比率になっています.ということは,TOPIXは1日で消し飛んだとき(日本消滅!?),他の債券の場合は1日で半値になったときに,グローバル3倍3分法ファンドは20%下落することになります.これが起きることはなかなか考えにくいですね.

2つの資産が同時に下落する場合ではどうでしょうか.TOPIXの場合は1日で50%の下落,債券の場合はそれぞれが1日で25%下落する状況において,それらのうち2つの資産の下落が同時に発生したときに,全体として20%の下落になります.債権についてはなんとなく起きないことはなさそうな状況ですね.

では,6つの資産が同時に下落した場合を考えてみます.このとき,1資産あたり1日で3.3%の下落が同時に起こった場合に相当します.比率20%のTOPIXが1日で3.3%下落する(20%が16.7%になる)のはTOPIXが16.5%下落した場合です.また,比率40%の債券が1日で3.3%下落するのは債券が8.25%下落した場合です.個々でみるともしかしたら起きるかも?という気がしますが,これらが同時に起きるかというとなかなか考えにくいですね.「リーマンショックなんかかわいいもんだよー」と言えるくらいとんでもないパニックが起きた場合でしょうか.

また,日本や米国の株式市場ではサーキットブレーカーがあります.たとえば,TOPIX先物では値幅制限は8%になっています2値幅制限は段階的に12%から16%まで大きくなりえます.このようなサーキットブレーカーがある以上は,それがシステムにバグがあって全く機能しないということがない限りは過剰な心配は不要じゃないかなと思います.

全損リスク

同様に,例を出しながら全損リスクについて考えてみましょう.

1つから2つの資産が同時に100%下落したとしても,純資産額の高々80%ですから全損までには至りません.

債券が3つ同時に100%下落すると,純資産額に対して120%の下落になるので全損します.また,TOPIXと2つの債券が100%下落しても全損です.例えば,日本が消滅してTOPIXと日本国債が紙くずになったうえで,もう一つ先進国がデフォルトして債券が紙くずになった場合に相当しますね.まぁ,このような状況になってしまったら投資とか関係ないと思いますが.

さて,6つの資産が同時に下落した場合に1資産あたりどれくらい下落したら全損となるでしょうか.1資産あたり1日で約16.7%の下落が同時に起こった場合に全損することになります.これはTOPIXでは1日で83.5%下落し,債券では41%以上下落した場合に相当します.

以上のようなことが起きる可能性は0ではありませんが,仮に起きてしまった場合は北斗の拳やMAD MAXのような世界になってしまっている可能性があります.このようなリスクを気にするようなら,そもそも投資なんか最初からしないようが良いんじゃないでしょうか.

もちろん,ヒャッハーな世界にならなくとも,システム的な不備で全資産同時フラッシュ・クラッシュ発生,あるいは運用会社のヒューマンエラーみたいな事でも全損するかもしれません.まぁ,気にしてもしようがないかなぁと思います.

レバレッジコスト

先物は証拠金取引であり,証拠金の何倍もの取引が可能です.グローバル3倍3分法は3%の証拠金で取引をするということなので約33%のレバレッジをかけていることになります.

さて,先物価格には金利コストが織り込まれています.金利コスト(レバレッジコスト)としてはFFレートや LIBOR 金利が想定されますが,先物価格から金利コストだけを分離するのはETFや投信の受益者にとって難しいです.

したがって,コストのなかで金利コストが実際どれくらいかかっているか確認しにくいコストです.

とはいえ,これで話が終わってしまうとおもしろくないので,簡易的ではありますが金利コストの影響を考えてみましょう.

「3倍3分法Magazine」によると,バックテストの結果ではグローバル3倍3分法ファンドのリターン(年率)とリスク(年率)はそれぞれ16.8%と16%です3バックテストがいつからなのかは不明ですが,併記されていたドローダウンと別のページに載っているバックテストのグラフに整合性があるため,そのバックテストと同じ2003年3月から2018年9月までの期間だと推測しています..同じ期間の先進国株式と新興国株式のリターンはそれぞれ11.2%と13.7%です.

リターンだけに着目すると,単純には16.8%から11.2%や13.7%を引いた,5.6%から3.1%ほど金利コストがかかると,レバレッジをかけたことで得られるリターンが消しとぶことになります.したがって,金利が3.1%から5.6%ぐらいの水準になると,リターンという点ではグローバル3倍3分法ファンドは割に合わないと言えるでしょう.

ただし,リスク(標準偏差)は先進国株式や新興国株式より小さいので,金利水準がそれくらいになったとしても,直ちにグローバル3倍3分法ファンドがダメというわけではないと思います.

売買コスト

売買コストについては,実際に投信の運用レポートを定期的に監視しながら,実際どれくらいかかっているのかを把握する必要があると思います.

グローバル3倍3分法ファンドは毎月の運用レポートにて以下のように,基準価額変動の要因分析を開示しています.これをもとに売買コスト(含む信託報酬)を考えてみましょう.

要因分解(出典: 2019月7月31日現在 グローバル3倍3分法ファンド マンスリーレポート)

2019月7月31日時点の運用レポートによると,設定来の基準価額11,921円に対して実質コスト(信託報酬等その他)が-62円となっています.したがって,設定来の実質コストは約0.52%となります.グローバル3倍3分法ファンドは2018年10月1日に設定されたので,7月末でまる10ヶ月間の運用になります.したがって,年率換算した実質コストは約0.623%4$r = (1-0.0052)^{1/10}-1$.$(1+r)^{12}-1 \approx 0.00623$で年率換算に変換となります.

グローバル3倍3分法ファンドの管理費用込の信託報酬は年0.4752%(税込)ですから,今のところ売買コストは低く抑えられていると言えると思います.

これぐらいの水準が継続するのであれば,売買コストについてはとくに問題にならないと思います.

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自然減価率

減価についてはいろいろと誤解を招きやすいので,まずは減価について順を追って説明したいと思います.

減価についてよく言われているのが「レバレッジをかけたETFや投資信託は減価する」というものです.ある指数に連動するETF(ETFx1)を例に考えてみます.ETFx1の価格が100円と90円と交互に行ったり来たりしている状況を考えると,ETFx1()の日次リターンの2倍のレバレッジをかけたETFx2()の値動きは次の図のように変化します.

確かに ETFx1は価格はもとに戻っていますが,ETFx2 はどんどん減っていることがわかります.これがよく言われている「レバレッジをかけたETFや投資信託は減価する」ということです5因みに,金額では同じ額で上げ下げしていますが,率で考えると下落率より上昇率の方が高く非対称性があります.

蛇足ですが上の図には,ETFx1の日次リターンに0.5倍のレバレッジをかけた ETFx0.5()も載せています.ETFx0.5の価格は徐々に増加していることに注意してください.このように,レバレッジのかけ方を工夫することで減価ではなくて増価することもできます.もちろん,増価の幅は小さくレバレッジコストによって消えてしまうぐらいしかないので,実用上は意味ないと思います.

以上のように,確かに1倍を超えるレバレッジをかけるともとの指数と比べて減価します.ポイントは「もとの指数と比べ」というところです.同じ指数に対してレバレッジをかけたもの同士でしか比較はできません.例えば,S&P500は減価しないけどグローバル3倍3分法ファンドはレバレッジをかけているから減価するんだ,という主張はできません.だからといって,存在しない1倍のグローバル3分法ファンドとグローバル3倍3分法ファンドを比較して後者は減価する,と主張しても意味はないでしょう.

では,一般的に減価の大きさを議論するときにはどうしたらいいでしょうか.それは,その商品のボラティリティ(リスク,標準偏差)で議論すれば良いです6リターンの分布が同じ確率分布に従うと仮定.レバレッジをかけているかどうかは関係なく,ボラティリティの高低によって減価の影響が大きいか小さいかが決まります.例として,価格100から始めて1ステップ毎に-$r$%と$r$%のリターンが交互に繰り返される商品を考えます.ここで,$r$を3%から20%の範囲でいくつかプロットした例を示します.

ボラティリティが高いほど価格の減少(減価)が大きいことが確認できますね.

つまり,レバレッジドETFは減価するといっているのはレバレッジドETFのボラティリティが高いと言っていることと変わりません.

ようやく本題です.グローバル3倍3分法ファンドの減価率はいくらか.S&P500と比較すると,グローバル3倍3分法ファンドのボラティリティは小さいです.つまり,想定される資産間の相関関係が維持されているなら減価は問題にはならないでしょう.

株と債券の同時安

株と債券の同時安,つまり,異なる資産間で負の相関あるいは弱い正の相関だったのが強い正の相関になった上で下落するような状況が発生した場合にどうなるかということですね.

レバレッジド・バランス投信で証拠金不足や全損につながるのは,株と債券の同時安のように資産間の相関関係がくずれたときだと思います.

以降では,瞬間的な相関関係の崩れと長期的な相関関係の崩れに分けて考えます.

瞬間的な相関関係の崩れ

まず瞬間的に相関関係がくずれるのは,信じられるものは現金しかない!みたいなパニックが起きたときだと想像しています.これはそれなりあると思います.

こういう場合を想定して,すべての資産が相関係数1で同時に下落する状況を考えます.まずは,ざっくり債券の下落幅は株式・REITの半分だと仮定して,株式・REITが5%下落する状況を考えましょう.このとき,TOPIXは20%の割合なのでグローバル3倍3分法ファンドでは1%の下落に相当します.同様に,他の資産について考えると,全体としてグローバル3倍3分法ファンドが10%下落することに相当します7株式3つと2つのREITの割合はそれぞれ20%,5つの債券は40%なので,1% $\times$ 5 + 0.5%$\times$2 $\times$ 5 = 10%

ちなみに,債券も含めすべて5%下落する場合は15%の下落になります.3倍のレバレッジなので5%の3倍の下落になるのは当然ですね.

とはいえ,ボラティリティが高い資産の比率は小さくボラティリティ低い資産の比率は高くなっているため,株の3倍の下落率になる状況は考えにくいと思います.

長期的な相関関係の崩れ

想定されている相関関係が長期的にくずれてくる場合は,結構問題だと思います.そういう相関関係のもとで比率が決定されファンドが設計されているためです.たとえば,株式と債券は負の相関がありますが,それが正の相関になったりすると,全体としてボラティリティが上がります.実際に昔より,株式と債券の負の相関は弱まっている傾向にあります.

したがって,長期的な相関関係の崩れについては,売買コストや金利コストと一緒で,継続して監視していく必要があると思います.

また,長期的な相関関係の崩れは,ボラティリティの上昇を引き起こし,いわゆる減価の影響が大きくなります.さらには,短期的な相関関係の崩れのリスクを増加させ,その先には,全損リスクを増加させます.つまり,長期的な相関関係の崩れは,レバレッジド・バランス投信のリスクを考える上で,重要な問題だと思います.そのため,定期的なチェックをする必要があると思います.

おわりに

今回は,グローバル3倍3分法ファンドを想定して,レバレッジドバランス投信の全損リスクをはじめとする気になる点について,どれくらいの影響度があってそれがどれくらいありえそうかを考えてみました.

要点をまとめると次の通りになります.

  • 全損リスク: 全損はなかなか起こらなさそう.先物の証拠金が追証になり現物資産を売ってその穴埋めをすることはあるかもしれないが,全損にまで至るようなことが起きた場合,そもそもそんなこと気にならないぐらいのとんでもないことが起きていると思われる(起きる状況を想像できない)
  • レバレッジコスト: 金利が上昇してくるとリターンが押し下げられるが,ボラティリティが抑えられているため直ちに悪くはならないと考えられる.ただし,継続的な監視は必要.
  • 売買コスト: 今のような水準が保たれるなら問題ない.ただし,継続的な監視は必要.
  • 減価: ボラティリティが株式程度に抑えられている限り問題にならない.
  • 株と債券の同時安: 想定されていた資産間の相関関係が長期的に崩れだしたら要注意.いわゆる減価の影響が大きくなり全損リスクも大きくなりうる.継続的な監視が必要.

たわら男爵さんがおっしゃっている通り,運用会社自身がこれらのリスクについて,受益者に対して定量的に説明してくれるのが一番だと思います.目論見書などによく載っている,ありきたりなリスク表示ではなくてね.

ということで,レバレッジドバランス投信は,何も考えずにただ積立していればいいような投信ではなく,資産間の相関関係や金利など定期的にしっかりと確認し,前提がくずれてきていないかチェックする必要はあると思います.

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