来年2018年からはじまる「つみたてNISA」の口座開設予約が今月から各証券会社ではじまりました.つみたてNISAは長期投資を想定した制度設計になっており,最長20年間が非課税になっています.しかし,年間40万円と少額すぎるとの指摘もあります.
また,金融庁がつみたてNISAの対象届け出商品を発表しました(つみたてNISA対象商品届出一覧(対象資産別)(平成29年10月3日時点)).そのなかには,最近話題の楽天・全米株式インデックス・ファンド(楽天VTIと勝手に呼ぶ)や楽天・全世界株式インデックス・ファンド(楽天VTと勝手に呼ぶ)が含まれます.私は,ドル転してVTIを積み立てるのがめんどくさいなぁと感じていたので,これらの投資信託に注目しています.
そこで,インデックスに対して長期投資をする際に,非課税期間が短いけど金額が大きい現行のNISAを使った方がお得なのか,それとも非課税期間が長いけど金額が小さいつみたてNISAを使った方がお得なのかを簡単にシミュレーションしてみたいと思います.
結論を言うと,達成できる資産に対して差はわずかでしが,長期にインデックス投資をするのであれば,投資金額にかかわらずつみたてNISAを活用したほうが手間が少なく金銭的にお得です.
コンテンツ
現行NISAとつみたてNISA
現行NISAとつみたてNISAの特徴です.
現行NISA | つみたてNISA | |
---|---|---|
非課税投資枠 | 120万円/年 | 40万円/年 |
非課税期間 | 5年間 | 20年間 |
口座開設期間 | 2023年まで | 2037年まで |
ロールオーバー | 可 | 不可 |
どちらの制度とも,残念ながら恒久化された制度ではないので口座開設ができる期間が決まっています.また,同じ年に現行NISAとつみたてNISA口座を開くことはできません.ただし,年が異なれば可能です.
シミュレーション
ということで,楽天VTIを積み立てた場合にどれだけ税金分がお得になるか簡単にシミュレーションしてみます.
前提
シミュレーションを行う上での前提は次のとおりです.
- シミュレーション期間は40年間.つみたてNISAの最後の積立が終わってから非課税が終わる20年間を想定
- 積立期間は20年間
- 残り20年間はホールドして放置
- 非課税期間終了後,はその時点までの利益を確定.それ以降の利益については課税されるとする
- 現行NISAでロールオーバーしない.
- 課税税率は20%とし,復興特別所得税は無視する.
- VTI は年利6.87%と仮定し1,複利運用する.積立は月々なので,その年利を月利に変換して計算する
- ただし,VTIと楽天VTIの信託報酬は0.04%と0.1696%と固定とし,その差分ほど楽天VTIの年利は低くなると考える
- つまり,楽天VTIの年利は6.63%,月利換算で0.537%.
- 配当は考慮しない
戦略
つみたてNISAと現行NISAの使い方として,次の2つの戦略を考えます.
- 枠がある限りつみたてNISAを使い,枠が溢れたら課税口座で残りを積み立てる
- きれいに割り切れないので,つみたてNISAの積立は月々33000円が上限とする
- 例えば,毎月50000円を積み立てる場合, 月々33000円をつみたてNISA口座でのこりの17000円は課税口座で積み立てる
- 現行NISAがなくなるまで現行NISAを利用し,その後はつみたてNISAで積み立てる.枠が溢れた場合は1と同じ運用をする.
- 例えば,現行NISAが新規開設できなくなる2023年までは,現行NISAを使い,それ以降はつみたてNISAで積立をする
想定シナリオ
月々の積立額を変えて,3つのシナリオを考えます.
- 月々33,000円(年間約40万円)を積み立てる
- 月々50,000円(年間60万円)を積み立てる
- 月々100,000円(年間120万)を積み立てる
一つ目は,つみたてNISA枠を目一杯使う場合です.12ヶ月で割り切れないので,えいやと33000にしています.二つ目は,月々の積立額として頑張れば達成できるかな,という金額にしてみました.3つ目は,現行NISA枠を使い切る額です.
結果
月々33,000円(年間約40万円)を積立
- 積立開始から20年後は165万円,40年後は579万円ほど,つみたてNISAでは節税ができます.
- 40年間で,元本の7割強がキャッシュバックされていると考えることができるでしょう.
- 年数が長いほど非課税期間で増えた資産が新たに多くの資産を生み出します.そのため,,40年以降も売却しなければ,節税額は線形に増えていきます.
月々50,000円(年間60万円)を積立
- 月々50,000円の積立をした場合,つみたてNISAをしたときの節税額は月々33,000円を積み立てた場合とかわりません.非課税額をすべて使い切っているのであたりまえですね.
- 最初の5年間,現行NISAで積み立て,その後つみたてNISAを利用した場合では,10年以上でみると最初からつみたてNISAを利用したほうが良くなっています.
- 最初の10年までは若干現行NISAを利用してからの方がよくなっています
- 最初からつみたてNISAを使ったほうが,20年後では60万くらい,40年後では80万くらい お得です.
- ただし,累計資産に対してみると,節税分はおまけ程度でしょう.
月々100,000円(年間120万)を積立
- 現行NISAの最大を使い切る場合では,現行NISA->つみたてNISAの節税分とつみたてNISAの節税分がとんとんになるのが15年にずれる程度です.結局はさいしょからつみたてNISAを利用した方が良いです.
- もちろん,全体の資産に対して節税額は少ないです.毎月100,000円を継続的に積立できる人なら現行NISAとかつみたてNISAとか考えずに,もくもくと積み立てればいいんじゃないかな.
雑感
- 40年先も継続的に成長するだろう市場に対するインデックス(全世界とか全米)に対して,長期投資をするならもくもくとつみたてNISAで積み立てるのが,手間や節税額的にお得だと思います.
- 実現できるだろう資産に対して節税額は決して大きくありませんが,ないよりはましです.もっと非課税額が大きくして欲しいという要望はわかります.
- 一方で,月々33,000円以上を継続的に積立ようと考えると,私の収支の状況では少し無理をしないといけません.余剰金の全てを投資にまわすのではなく,他の趣味などに回した方が生活の質をあげると思うと,年間40万というのは,それはそれで十分ではないかなと思います.それ以上枠があると,「金持ち優遇だ」とどこからともなく声があがってきそうです.
- 現行NISAをうまくつかうとするならば,インデックス対する長期投資ではなく短期や中期で2倍株やテンバガーを狙った個別株に投資することだと思います.
- ただし,繰越控除ができないなど,ハイリスク・ハイリターン狙いになります.
- 夢があっていいですが,勝てる気がしないので私はしません.
- 20代で長期的な資産形成を行う上では,つみたてNISAを使わない手はないと思います.
- 個人的には,資産ポートフォリオの一部として長期のインデックス投資としてつみたてNISAを使おうと思っています.そうすることによって,個別株やオプションなどにリスクをとって,投資を楽しめると思います.
おまけ(計算方法)
どんな計算をしているのか気になる人がいるかもしれないので,おまけとして,以上のシミュレーションの計算方法の詳細をまとめます.何か問題があればご指摘ください.
まず,元本$p$円を複利運用して$n$ヶ月後に売却することから考えます.その後,それをもとに毎月積立を行い$n$ヶ月後に売却したときの税引き後累計資産を求めます.
まずは,記号を以下のように定義します.
- $n$: 積立開始からの経過月数
- $p$: 毎月の積立額
- $r_y$: 年利
- $r_m$: 月利.つまり$r_m = (1+r_y)^{1/12}-1$
- $r_{tax}$: 譲渡時の税率
元本$p$を複利運用して$n$ヶ月後に売却したときの税引き後資産額
課税口座の場合
元本$p$を複利運用$n$ヶ月行うことを考えます.売却時に課税されるので,税引き後の資産額は次のように書けます.
\[
f_1(p,n)=(p\cdot(1+r_m)^n-p)\cdot(1-r_{tax})+p
\]
つみたてNISA口座の場合
NISAの場合は,つみたて開始から20年間(つまり,240ヶ月)の利益は非課税になります.20年以降の利益に対しては課税口座と同様に課税されます.したがって,20年経過後は元本$p$を240年間複利運用した結果を元本として課税口座で運用開始した場合と同じになります.よって,毎月の枠内に積立額がおさまる場合は,次のように税引き後資産が求まります.
\[
f_{2-1}(p,n)=\left\{
\begin{array}{ll}
p\cdot(1+r_m)^n & \mathrm{if}~~n\leq 240 \\
f_1(p\cdot(1+r_m)^{240},n-240) & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\]
一方で,毎月のNISA枠を超える場合,つまり,$p>33000$の場合は次のようになります.
\[
f_{2-2}(p,n)=\left\{
\begin{array}{ll}
33000\cdot(1+r_m)^n+f_1(p-33000,n) & \mathrm{if}~~n\leq 240 \\
f_1(33000\cdot(1+r_m)^{240},n)+f_1(p-33000,n) & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\]
これらをまとめると,つみたてNISA口座の場合に元本$p$を$n$ヶ月後に売却したときの税引き後資産額は次式で計算できます.
\[
f_{2}(p,n)=\left\{
\begin{array}{ll}
f_{2-1}(p,n) & \mathrm{if}~~p\leq 33000 \\
f_{2-2}(p,n) & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\]
現行NISA口座の場合
今回の仮定のもとでは,現行NISAとつみたてNISAの違いは金額と非課税期間です.積立金額を$p$は100000を超えない場合に限定すると,現行NISAを利用した場合の税引き後資産額は次式となります.
\[
f_{3}(p,n)=\left\{
\begin{array}{ll}
p\cdot(1+r_m)^n & \mathrm{if}~~n\leq 60 \\
f_1(p\cdot(1+r_m)^{60},n-60) & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\]
積立開始から$n$ヶ月後に売却したときの税引き後累計資産
以上をもとにj,最大240ヶ月間積立をしようとしたときに,最初に積立を始めてから$n$ヶ月後に全資産を売却したときの税引き後累計資産額を考えます.
1ヶ月目に積み立てたものは,$n$ヶ月間運用されますし,2ヶ月目に積み立てたものは$n-1$ヶ月間運用されます.これらを毎月,240ヶ月間積み立てるので,最終的に次式でかけます.
\[
F_{v}(p,n)=\left\{
\begin{array}{ll}
\sum_{x=1}^nf_{v}(p,n-x+1) & \mathrm{if}~~n\leq 240 \\
\sum_{x=1}^{240}f_{v}(p,n-x+1) & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\]
なお,$F_v$の$v$は1,2のいずれかです.
現行NISAからつみたてNISAに切り替える場合は,少し複雑になります.
\[
F_{3}(p,n)=\left\{
\begin{array}{ll}
\sum_{x=1}^nf_{3}(p,n-x+1) & \mathrm{if}~~n\leq 60 \\
\sum_{x=1}^{60}f_{3}(p,n-x+1)+\sum_{x=61}^{n}f_2(p,n-x+1) & \mathrm{if}~~60<n\leq 240 \\
\sum_{x=1}^{60}f_{3}(p,n-x+1)+\sum_{x=61}^{240}f_2(p,n-x+1) & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\]
- VTIの設定来の年利です. ↩
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