ブル型ETFの買いとベア型ETFの売り,どちらが有利か: 一定の投資額で長期運用した場合

前回は,ある指数に連動する通常のETF(ブル型ETF)を買うこと(ロング)とその指数の値動きと逆に動くベア型ETFを空売り1空売りに類するポジションを持つ意で言っています.言葉の通りETFを空売りすることを前提とはしておらず,CFDでショートなり,オプションでショート(Putオプション買い or Callオプションの売りなど)なり,それぞれが有利と思われる手段をとってください.すること(ショート)は,最初にポジションを作ってから保有日数に応じてどちらが有利になるかということを見てみました.

しかし実際は,投資開始時に一括投資することは多くなく,つみたて投資のように定期的に資金を追加するのが通常です.また,ブル型ETFは順調に増えているときベア型ETF自体の価格は順調に減っているわけで,リスクにさらされている金額が違います.

そこで今回は,定期的にもとの投資額にリバランスすることを行い,ブル型ETFをロングしたほうがいいのかベア型ETFをショートしたほうが良いのかを確認したいと思います.つまり,リスクに晒される金額を一定に保つ時間分散投資を考えます.

なお,今回の結論は,ベア型ETFをショートしたほうが有利となりました.結果は次のとおり.

  • 年間収益の期待値は,ブル型ETFをロングしたほうがわずかに高い.
  • 年間収益の中央値は,投資期間が短いとベア型ETFをショートするほうが有利で,その効果はリバランス間隔が長いほど大きくなる.投資期間が長いとどちらも中央値はほとんどかわらない.
  • 累積収益の標準偏差は,ベア型ETFをショートするほうが小さい
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時間分散長期投資

通常は投資をしていると,リスクに晒されている金額は増減します.例えば,100万円分のETFに投資しているとき,その価格が10%値上がりして110万円になったとします.このとき,10万円分の評価益がでていますが,リスクに晒されている金額も100万円から110万円に増えています.もちろん,このようになるから,複利で資産が増えていきます2もちろん減る場合には,複利で減ります

これはこれで良いのですが,投資先の分散と同じように,投資期間に渡ってリスクの時間分散を考えた方が良いという考え方があります.これはつまり,投資期間通してさらされるリスクを一定に保つことに相当します.以下の本では,終始投資額を一定に保っているわけではありませんが,時間的な分散を考え,レバレッジを上手く活用しながら,投資初期には最大2倍のレバレッジをかけて徐々にレバレッジを落としていく戦略を紹介しています.

ということで,投資期間全体に渡って一定の金額を投資続けることを考えます.例えば,先の例のようにETFに100万円分投資して110万円になったら,10万円分を利確し100万円分に戻すということです3もちろん実際はそんな細かいことできない場合がありますが,ここでは無視します.逆に,100万円分のETFが90万になったら,10万円追加して100万円に戻します.

検証方法

以降では,売買手数料などのコストは考慮せずに指数の値動きのみに着目して,投資期間ごとの収益(リターン)を確認します.投資額をもとに戻すリバランスの間隔を1ヶ月から1年まで変化させています.なお,以降のシミュレーションでは,1ヶ月を20日として計算しています.

値動きはSPYの終値を用います.2000年1月1日から2020年2月11日までのSPYの終値を用います.以下のように,SPYの日次のリターン分布は正規分布(normal)と実際の分布とは乖離があるので,カーネル密度推定(kernel)で推定した分布に基づくとしました.

収益は主に累積収益を考えます.例えば,最初に100万円投資して,1年経ったときに120万円になっていたとしたら,リターンは0.2というように計算しています.ショートの場合は,100万円分空売りして,1年経ったときに80万になっていたら,リターンは0.2というようになります.

カーネル密度推定した分布に従って日次収益を確率的に求め,各設定において10000回のモンテカルロ・シミュレーションを行いました.

結果

保有日数毎の累積収益

まずは,リバランス間隔を1ヶ月(20日)から1年(240日)毎の1年間の累積収益の分布です.このとき,1年はリバランスなしに相当します.

240日(1年)保有した場合のリバランス日数毎の累積リターン分布

ブル型ETFをロング(左図)した場合は,リバランス間隔が長いほど分布の最頻値が左に寄る傾向があります.一方でベア型ETFをショート(右図)した場合はリバランス間隔が長いほど分布の最頻値がプラス方向にずれる傾向にあります.ただし,前回確認したように,ブル型ETFをロングすると確率は低いが大きなリターンが得られるものの,ベア型ETFをショートすると,確率は低いが大きな損失を被る可能性が高くなることに注意です.

では,投資期間を1200日(5年)に延ばしてみるとどうでしょうか.

1200日(5年)保有した場合のリバランス日数毎の累積リターン分布

240日保有した場合と比べて,リバランス間隔間での分布の違いは小さくなっています.ベア型ETFをショートしたほうが分布の山がブル型ETFをロングした場合より高いので,前者の方が累積収益のばらつきが小さいと言えます.

さらに投資期間を増やすとどうなるでしょうか.2440日(10年)投資した場合の累積収益はこんな感じです.

2400日(10年)保有した場合のリバランス日数毎の累積リターン分布

ブル型ETFをロングする場合とベア型ETFをショートする場合では,後者の方が分布の山が少し高いものの最頻値はほとんど変わりません.また,分布のプラス側の裾に注目すると,ベア型ETFをショートするより,ブル型ETFをロングする方が確率が高くなっています.ただし,分布のマイナス側の裾では,それぞれで大きな違いはないようにみえます.

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年間収益の期待値・中央値と累積収益の標準偏差

次に,以上の収益分布を含め,投資期間毎の年間収益の期待値(左図)と中央値(中図),そして累積収益の標準偏差(右図)を確認します.年間収益の期待値と中央値は,今回は投資額を一定にするリバランスを行っているため,単純に累積収益を算術平均で平均化しました.

年間収益の期待値・中央値と累積収益の標準偏差(ブル型ETFロング)
年間収益の期待値・中央値と累積収益の標準偏差(ベア型ETFショート)

まずは年間収益の期待値(左図)に注目します.期待値は,ブル型ETFをロングしたほうが若干期待値が高いですが,高々0.002(0.2%)から0.004(0.4%)ぐらいの差なのでベア型ETFをショートした場合とほとんど変わらないといえるでしょう.

中央値についてはおもしろい差が見られています.ブル型ETFをロングした場合とベア型ETFをショートした場合では,ともに投資期間が長くなるにつれて0.058(5.8%)くらいに収束しますが,投資期間が短いと違いが見られます.投資期間が短いと,ブル型ETFをロングした場合はリバランス間隔が長いほど中央値が低く,ベア型ETFをショートした場合はリバランス期間が長いほど中央値が高くなっています.つまり,ベア型ETFをショートした場合は,投資期間が短いときは有利に働くということです.

最後に累積収益の標準偏差ですが,ベア型ETFをショートする方が標準偏差が小さくなっています.特に,4800日(20年)投資した場合では,約0.1ぐらいベア型ETFをショートしたほうが小さいです.

まとめると,期待値,中央値と累積収益の標準偏差では以下の通りです.

  • 年間収益の期待値: ブル型ロングの勝ち(0.2%から0.4%)
  • 年間収益の中央値: 同程度
  • 累積収益の標準偏差: ベア型ショートの勝ち

中央値が同程度で標準偏差が小さいベア型ETFのショートの方が長期的にも短期的にも有利だと思います.

プラス収益になる割合

最後に,投資期間に対してプラス収益になる割合を出してみました.

保有日数に対するプラス収益になる割合

投資期間が短いときは顕著にベア型ETFをショートした場合の方が収益がプラスになる割合が多いですが,投資期間が長くなるにつれてほとんど変わらなくなります.ちなみに,実際の数値で確認すると,ベア型ETFをショートした場合のほうが0.01から0.02くらい大きかったです.

おわりに

今回は,時間分散投資を念頭に,投資期間にわたって一定の投資額を保つ際に,ブル型ETFをロングするのとベア型ETFをショートするのにはどちらが有利かを確認しました.その結果をまとめると,以下のようになります.

  • 年間収益の期待値は,ブル型ETFをロングしたほうがわずかに高い.
  • 年間収益の中央値は,投資期間が短いとベア型ETFをショートするほうが有利で,その効果はリバランス間隔が長いほど大きくなる.投資期間が長いとどちらも中央値はほとんどかわらない.
  • 累積収益の標準偏差は,ベア型ETFをショートするほうが小さい

個人的には,長期的には中央値が同じなので,標準偏差が小さくなるベア型ETFをショートをしたほうが有利だと思います.もちろん,実践する場合は,それぞれのポジションをとったときにかかるコストを考えたうえで有利な方を選ぶべきです.まぁ,オプションを使わない限りは,ベア型ETFをショートするコストは高いと思いますが(´ー`)

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