S&P500・4倍ブル型ファンドに使い道はあるのか?

2021年はレバナスが流行りましたが,「高々2倍だし,自分はやらないけど儲かったらいいね」と傍観していました.そしたら,2022年に入りS&P500の日次リターンの4倍になるようにレバレッジをかけたファンド(投資信託)が登場するということで驚きました.これからどんどん金利が上がっていくぞーという局面ででてくるとは,まさに上昇相場の終わりを告げるなんとやらですね.

このファンド自身,EDINETで公開されている有価証券届出書に,「保有期間に応じ低減していく可能性が高く、中長期の保有には適していません」と明記されている通り,ガチホによる長期投資には一般的には向いていません1詳細は省きますが,シャープレシオが元の指数より悪化するとともに,分散が大きくなるため..一方で短期投資をするにしても,投資信託であるがゆえに,購入および売却時点では基準価額が不明であるため,より一層ギャンブル要素が高まります.

とはいえ,このファンドの使い道というのはあるのでしょうか?中長期の保有には適していないのはそうですが,S&P500に投資するより儲かる可能性が低いとしても,その逆はあるわけで,宝くじ枠として投資する意味はあるかもしれません.

ということで,モンテカルロ・シミュレーションで,S&P500より儲かる確率はどれくらいで,S&P500の年利がどれくらいであればS&P500より4倍ブル型ファンドが儲かるのかをみてみました.その結果,結構な強気相場が続けば意味がありそうだけど,個人的にはそこまで強気にはなれないなという結論です.

スポンサーリンク

S&P500・4倍ブル型ファンド

「S&P500・4倍ブル型ファンド」がT&Dアセットマネジメントから出るとのことです.以降では,「S&P500・4倍ブル型ファンド」のことを4倍ファンドと呼ぶことにします.4倍ファンドはS&P500の日次リターンの4倍に連動するような投資信託です.円建パフォーマンス・リンク債権に投資することで,そのような動きを実現するとのことです.詳細はEDINETから有価証券届出書が確認できます.

EDINET
エラー画面

評価条件

S&P500としてETFのSPYをもとに,4倍ファンドをシミュレーションします.SPYの2006年6月22日〜2022年1月31日までの株価推移を元に,4倍ファンドを作ってみます.考慮するのは,ファンドの信託報酬21.13%(税抜)と金利$r_{interest}$を考慮します.

SPYの日次リターンを$r_{spy}$とすると,4倍ファンドの日次リターンは以下のようにかけます.

\begin{align}
spx4\_return = 4\cdot r_{spy} – (daily\_fee + 3\cdot daily\_interest\_rate)
\end{align}

なお,1日あたりの信託報酬$daily\_fee$はSPYとの差額を用いて1年の営業日を250日として計算し,1日あたりの金利$daily\_interest\_rate$も同様に求めます.それぞれ以下のようになります.

\begin{align}
daily\_fee &= (1+(0.0113-0.000945))^\frac{1}{250}-1 \\
daily\_interest\_rate &= (1+r_{interest})^\frac{1}{250}-1
\end{align}

SPYの日次リターンの経験分布と式(1)を用いて求めた4倍ファンドの経験分布は次のようになります3日次リターンを元にカーネル推定した分布になります..金利は0%と5%の場合のみプロットしています.

S&P500に比べ,4倍ファンドは裾野が広い分布になっています.図を拡大するとわかりますが,金利0%に比べ5%のグラフは若干左にシフトしています.この差は非常にわずかですが,後で見られるように長期になるほどその影響は大きくなっていきます.

以降では,SPYの日次リターンの経験分布に基づいて,10年分の日次リターンの系列を20000パターン生成し,その結果に基づき分析していきます.

評価結果

リターン分布

まずは1年後のトータルリターン分布を見てみましょう.0より小さければ損をしており,0より大きければ利益がでているというような見方になります.4倍ファンドののアンダースコア以降の数字が金利を表しています.

4倍ファンドの中央値は0を下回っていることがわかりますね.これが長期投資には向かないという所以です.金利が大きくなるにつれて,4倍ファンドの中央値がどんどん-1に近づいています.

次に,5年後のトータルリターンの分布です.

4倍ファンドの分布はさらに裾野が広い分布になっており,金利5%の世界では結構の確率でほぼ全損といって良いような状況になります.

最後に10年後のトータルリターン分布をみてみましょう.

4倍ファンドの分散が大きすぎてフラットな分布になっています4プラス側に値が飛びすぎてちゃんと推定できていない可能性があります.まさにギャンブルですね.

元本割れしない確率

まずは元本割れしない確率を見てみましょう520000パターンの中でプラスリターンとなっている割合で算出しています

名称1年後5年後10年後
spy68.79%86.05%93.72%
spx4_056.41%63.33%69.12%
spx4_0.0154.87%60.32%65.05%
spx4_0.0253.57%57.08%60.89%
spx4_0.0352.19%53.73%56.20%
spx4_0.0450.72%50.84%51.63%
spx4_0.0549.43%47.76%47.47%

SPYの場合は1年後,5年後,10年後と時間が経つにつれて元本割れの確率が小さくなっていきます.一方で,4倍ファンドの場合は低金利のうちは元本割れのリスクは投資期間が長いほど小さくなっていきますが,金利が5%となると元本割れリスクが逆に高くなることがわかります.

S&P500・4倍ブル型ファンドがS&P500よりリターンが高くなる確率

もう少しつっこんで見てみましょう.レバレッジ型ファンドを使う以上,元の指数より儲かることを期待しているはずです.では,4倍ファンドがS&P500よりリターンが高くなる確率はどれくらいあるのでしょうか?その確率を求めると以下の表になります.

金利1年後5年後10年後
052.41%53.95%56.38%
0.0150.46%49.89%50.33%
0.0248.62%45.77%44.70%
0.0346.63%41.65%39.06%
0.0444.69%37.64%33.38%
0.0542.88%33.99%28.19%

金利がない理想的な状況であれば,投資期間が長くなるほど,4倍ファンドがS&P500よりリターンが高くなる確率が若干あがります.しかし,金利1%であってもその確率は50%で,金利が高くなるほど長期でS&P500に勝てる確率が大きく低下していきます.

そのときのS&P500のリターンは?

それでは,4倍ファンドがS&P500よりリターンが高くなる場合,S&P500のリターンがどれくらいのときかを見てみましょう6乗算は計算順序を入れ替えても計算結果が変わらないので,4倍ファンドの元となっているS&P500のトータルリターンだけで判断できます

金利1年5年 (年率換算)10年 (年率換算)
00.055050.3982 (0.06934)1.032 (0.07346)
0.010.06380.4736 (0.08062)1.263 (0.08511)
0.020.072310.5369 (0.08976)1.524 (0.09698)
0.030.084340.5625 (0.09336)1.714 (0.105)
0.040.0950.654 (0.1059)2.027 (0.1171)
0.050.099090.7342 (0.1164)2.362 (0.1289)

()内の数字は年率換算したリターンです.

金利がない理想的な状況でも,4倍ファンドが1年後にS&P500に勝つためには,S&P500のリターンが6%弱必要になります.リーマンショック以降の好調な相場環境であればよいですが,今後も期待できるかは疑問です.

また,投資期間が長くなるほどS&P500に求められるリターンが高くなっていきます.その影響は金利が高くなるほど大きくなりますが,それ以上に,金利が高いともともと要求されるリターンが大きくなっています.例えば,金利5%で1年後の場合ではS&P500が10%のリターンが必要になります.なかなか高いリターンが求められます.因みに,VangurdのWebサイトによると,ここ10年のS&P500の年率リターンは15%程度とのことなので,ここ10年のような金融緩和バリバリの相場が,今後10年も続くなら,4倍ファンドをガチホすることで勝ち組になれますね.

ということで,4倍ファンドを使って投資する場合は,金利の見通しがどれくらいで,$n$年後にどれくらいのリターンが欲しくて,要求されるS&P500のリターンは現実的なのかを検討したうえで行った方が良いでしょう.因みに,短期投資する場合でも,投資期間内でS&P500より高いリターンを得るために必要なS&P500のリターンが得られそうかどうかを検討した上で利用するのがよさそうです.

その確率は?

ついでにS&P500が上の表のリターン以上となる確率もみてみましょう.

金利1年5年10年
058.74%62.86%66.34%
0.0157.10%58.36%59.96%
0.0255.52%54.69%53.31%
0.0353.25%53.14%48.75%
0.0451.24%48.41%42.23%
0.0550.52%44.23%35.97%

良くて半分ちょっとくらいの確率しかありません.なお,2006年以降の(結果的には)好調だった株価を利用しているので,今後のリターン分布とは乖離している可能性が多いにあります.

おわりに

今回はS&P500・4倍ブル型ファンドの使い道を考える上で,モンテカルロ・シミュレーションをしてみました.

短期・中期・長期にかかわらず,S&P500のリターンがうまく予測できる自信があり,S&P500・4倍ブル型ファンドのリターンがS&P500より得られそうであれば,利用する価値があるかと思います.

また,分散をマイルドにさせるという意味で,積み立てるのもありかと思います.ただし,その場合は,S&P500に劣後する可能性は高まりますが…

積立投資: ボラティリティが高いレバレッジドファンドに有効?
ボラティリティが高いレバレッジファンドを積立投資することは有効なのかということを,モンテカルロシミュレーションで検証してみました.その結果,レバレッジが高いものは一括投資より積立投資が有利だが,その場合はレバレッジなしで一括投資したほうが断然有利ということが示唆されます.

個人的にはレバレッジをかけるなら,グロ3のようにシャープレシオを高めたものにレバレッジをかけたいですね.

コメント