レバレッジドETF単体で長期目的の投資をすることはオススメしない理由

自身のリスク許容度に応じてレバレッジをかければいいじゃない」というのが私の立場です.とはいうものの,レバレッジドETFそれ単体で長期投資することはオススメしません.

このこと自体はよく言われていることですが,レバレッジを活用している私から改めて,なぜオススメしないのかを説明します.結論をいうと,リスクあたりのリターンが小さい(シャープレシオが低い)ため損をする確率が高い,ということです.

今回は,S&P500のETFであるSPYとS&P500の3倍レバレッジドETFであるSPXLを想定して,投資開始から$N$年後のリターン分布を求めます.そのあと,シャープレシオの高低でリターンがどうなるかをみます.
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SPYとSPXL

使用するSPYとSPXLの特性を確認します.

SPYのデータは1993/1/22から2019/2/22までの株価データを用います.SPXLは2008/11/05からのデータしかないので,SPYの日次リターンを3倍にして擬似的に求めました.ここ10年の好調な相場をもとに考えるのは危ういのでこのようにしました.

約26年間の株価データから年率に換算すると,SPYとSPXLのリターンと標準偏差は以下の表のようになります
SPYSPXL
年間リターン(%)9.40018.200
標準偏差0.1830.549
シャープレシオ0.5120.332
ソルティノレシオ0.0520.052
最大ドローダウン55.20096.400
SPXLは標準偏差はSPYの3倍になっているものの,リターンは2倍弱にとどまっていることがわかりますね.

$N$年後のリターン分布

以上のデータに基づいてリターン分布を求めてみます.1年から20年までのリターン分布をみてみましょう.横軸Returnが1のとき元本のまま,つまりリターンが0%ということを示します.
SPYのリターン分布をみると,分布のピーク(最頻値)は年数が経つごとに徐々に右にずれていっているものの,より平べったい分布になっていっていることがわかります.

一方で,SPXLのリターン分布は,分布のピークが1年目から元本(1)を下回っており,直感的に損しやすそうだということがわかると思います.

$N$年後の期待値,中央値,最頻値

以上のリターン分布を,期待値,中央値,最頻値に着目してみてみましょう.縦軸は対数です.
期待値でみるとSPXLは強烈なリターンをもたらしてくれるように見えます.しかし,中央値でみると,レバレッジをかけていないSPYと同程度かそれを下回るリターンしか得られていません.さらに,最頻値でみると,年々お金を溶かしているだけにみえますね.

このように,レバレッジドETF単体ではリターンの割にリスクが高いため,長期的に損しやすい商品だといえます.

$N$年後の元本割れ確率

ついでに,元本割れの確率(1を下回る確率)を見てみましょう.
ともに年数を経ることで元本割れ確率は小さくなっていきます.しかし,SPXLの場合は,たとえ30年経っても20%の確率で元本割れになっています.

宝くじ感覚でSPXLを買うのは良いかもしれませんが,投資として全ツッパみたいなことは避けるべきだと思います.

シャープレシオと$N$年後のリターンの関係

さて,SPYとSPXLのリターン分布をみてきましたが,結局のところ,リスクに対してリターンが見合っていなければ損をしやすいということですね.つまり,シャープレシオの高いものに投資をしましょうということです.もちろん,ポートフォリオ全体で考える必要があります. ということで次に,ボラティリティをSPYと同じに固定にして,リターンを変えてシャープレシオの違いにより,期待値,中央値,最頻値がどのように変化するのかをみてみましょう.加えて,元本割れの確率もみます.

期待値,中央値,最頻値

まずは期待値,中央値,最頻値をみてみましょう.縦軸は対数です.かなりやかましいグラフですが(;´Д`)
シャープレシオが高いほど中央値や最頻値は大きくなりますね.今回の場合は,シャープレシオが0.25で最頻値がずっとよこよこですね.さらにシャープレシオが低いと,損する未来しかみえないですね(´・ω・`)
仮に1000万円を1億にしようと思うと,シャープレシオが1のポートフォリオでも15年かかります(中央値).なかなか長期的にシャープレシオが1なんてないですから,結構大変です. ちなみに,リスク(ボラティリティ)が小さいほど,期待値,中央値,最頻値の差は小さくなります.リターンの確度を高めると言う意味でリスクを小さくするというのは良いと思います.

元本割れ確率

最後に元本割れ確率を見てみましょう.
シャープレシオが高いほど,元本割れ確率が小さくなっていることがわかりますね.

おわりに

今回は,SPYとSPXLを題材に,レバレッジドETF単体で長期投資をすることが如何に愚行かをリターン分布をもとにまとめてみました.リターンに対してリスク(ボラティリティ)が高いと,期待値は良くても中央値・最頻値ではリターンが小さく,元本割れの確率も高くなります.

やはり,リターンを求めるならシャープレシオの高いポートフォリオに対してレバレッジをかける方が良いでしょうね. そういう意味で,S&P500のレバレッジのかかったifreeの投資信託はダメだと思っています.レバレッジファンドを投資信託で出すなら,バランスファンドにレバレッジをかけたものを出すべきでしょう.

そう,グローバル3倍3分法ファンドのようにね. そろそろ他の運用会社からもでてきてもいいと思うんだけどなー(´ー`)

付録: $N$年後のリターン分布の求め方

連続複利で考えると,投資におけるリターン(連続複利収益率)の分布は正規分布$N(\mu, \sigma^2)$に従っているとみなすことができます(多くの場合).もちろん暴落などのテールリスクは表わせませんが,実用上そういうものだと思って使えば問題ありません. また,1年間のリターンを$R$とすると,1年間のリターンは$$e^r=1+R$$と表せます.ここで,$r$は連続複利収益率です.$r$が$N(\mu,\sigma^2)$に従うので,$e^r$は対数正規分布$LgN(\mu, \sigma^2)$に従います.また,$N$年後の収益率は$e^{Nr}$となります.

これらをもとに,1年間のリターン$R$とリスク$s^2$を使って,対数正規分布のパラメータ$\mu$と$\sigma^2$を求めると,最終的に次のようになります.

\begin{align}
\mu &= \ln(1+R)-\frac{\sigma^2}{2} \notag\newline
\sigma^2 &= \ln \left(1+\frac{s^2}{(1+R)^2} \right) \notag
\end{align}

これらを用いて,$N$年後のリターン分布は$LgN(N\mu,N\sigma^2)$で得られます.あとは,RなりpythonなりExcelなり好きなソフトウェアを使って分布を描くことができます.

導出に関しては,こちらのブログが詳しいです. なお,$N$年後の各統計量は次のように求められます.
  • 期待値: $(1+R)^N$
  • 中央値: $\frac{1+R}{\sqrt{1+\frac{s^2}{(1+R)^2}}}$
  • 最頻値: $\frac{1+R}{\left(1+\frac{s^2}{(1+R)^2}\right)^{\frac{3}{2}}}$
  • 累積確率密度関数: $f(x) = \frac{1}{2}\mathrm{erfc}\left(-\frac{\ln x-\mu}{\sqrt{2}\sigma}\right)$

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