私,大変なことに気づいてしまいました(;´Д`)
株式オプションを使って,株の譲渡所得とオプションなどの雑所得を相互に移転し,確定した損益を含み益あるいは含み損とする方法を思いついたのです.
これを使えば,損失を無限に繰り越せるし,利益に対する課税も無限に先延ばしにすることができます.つまり,以下のことができます.
- 株式の税率か雑所得の税率の有利な方の課税を選べる
- 利益に対する課税を最終的な売却時まで先伸ばせるので,株の複利効果を効果的に使える
ただし,これが使えるのはIB証券などの海外の証券口座のみです.
ということで今回は,海外証券口座のマージン口座において,株式オプションを使った,譲渡所得と雑所得の損益の相互移転,そして損益の無限繰越しによる節税による投資リターンを向上させる方法について書きたいと思います.
なお,理論上は可能だと考えていますが,まだ実際に試したわけではありません.また,税制の専門家ではありませんので,間違いが含まれているかもしれません.お気づきの点があれば,twitter等でお知らせください.
コンテンツ
前提知識
金融商品に関係する税制
まずは金融商品に関係する税制をざっと確認しましょう.海外証券口座の税制の詳細については鎌倉見物さんのサイトに丸投げしますが,ざっとこんな感じです.
- 海外証券口座で購入した株式は,上場株式であろうと非上場株式としてみなされる
- 海外証券口座で購入した株式の配当は,総合課税の配当所得に分類(累進課税)
- 海外証券口座で購入した株式の譲渡所得に対する課税は分離課税で,その税率は20.315%(住民税,復興特別所得税含む)
- 海外証券口座で購入した株式の損失は,「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」が適用されない(損益通算と損失の繰越ができない)
- 海外証券口座で購入した株式オプションは総合課税の雑所得に分類(累進課税)
株の売買と配当の税制に関する法的根拠と解釈については,以下の鎌倉見物さんの記事がわかりやすいです.
配当と株式オプションは同じ総合課税ですが,所得の分類が異なるので,いわゆる損益通算はできません.一方で,雑所得にはブログの収益や仮想通貨の売却益,貸株の金利などが含まれ,株式オプションの損益はそれらと合算することができます.例えば,オプションの損失をブログの収益で補填できます.
同様に,株式の譲渡所得と株式オプションの損益は合算できません.さらに,株式の譲渡損失の繰越し(3年間)も適用されません.これが海外証券口座で株式を売買するときの税制上不利な点です.
海外証券口座を使用する際の税制環境はそんな感じなのですが,今回は,損益通算や損失の繰越しのできない,海外証券口座で購入した株式と株式オプションの損益を相互に移転して,利益に対する課税と損失の繰越しが実はできちゃうのではないか,という話になります.
株式オプションって?
株式オプションの前に,オプションについて簡単に説明します.
オプションは金融商品をある価格(権利行使価格)で買う,あるいは,売る権利です.買う権利はCallオプション,売る権利はPutオプションといいます.オプションには使用期限があります.その期限を過ぎるとオプションは無価値になります.
オプションは株式や先物,為替など様々な金融商品に対してあります.ここでは,株式を対象としている株式オプションに着目します.
先物オプションは差金決済ですが,株式オプションはオプションの売買の他,権利行使によって現物株を権利行使価格で売買することができます.権利行使がいつできるのかによってアメリカン型とヨーロピアン型の2つのオプションがあります.アメリカン型のオプションは権利行使日までの任意のタイミングで権利行使でき,ヨーロピアン型のオプションは権利行使日に権利行使できます.以降で対象としている株式オプションは,アメリカン型のオプションです.
また,株式オプションでは通常オプション1つに対して100株が対応しています.
本質的価値と時間的価値
さて,そんなオプションですが,その価格(プレミアム)は本質的価値と時間的価値によって決まります.
本質的価値というのは権利そのものの価値です.たとえば,原資産が100ドルであったときに,権利行使価格80ドルのCallオプションは20ドル分の価値がありますが,権利行使価格が110ドルのCallオプションの価値は0です.
一方で,時間的価値というのは簡単にいうと,そのオプションが使える期間の長さに関係する価値です.使用期限が長いほど時間的価値が高くなります.時間的価値の厳密な話は以降では関係ないので割愛します.
株式と株式オプションの関係
いくつか例を出して,株式と株式オプションの税金の関係を説明します.
ネイキッドPutオプション売り
まずは,Putオプションを裸で売った場合を考えましょう.このとき,Putオプションを売ったときのプレミアムが含み益になります.
権利行使日に権利行使価格より原資産価格が高かった場合は,普通Putオプションの権利は行使されないため,プレミアムが利益として確定されます.これは,オプションの利益なので雑所得になります.
逆に,権利行使日に権利行使価格より原資産価格が低かった場合では,Putオプションの権利が行使されます.その結果,権利行使価格-プレミアムの価格で現物株を取得したことになります.なお,ここではまだ損益は未確定です.その後,その現物株を売却したときに損益が確定します.これは,譲渡所得で課税されます.
つまり,Putオプション売りで割り当てられた株式はプレミアム分権利行使価格より安く取得したことになり,その損益は売却をすることで確定し譲渡所得で課税されるということですね.
カバード・コール
次に,カバード・コールを考えます.カバード・コールは,現物株式を持ちながらCallオプションを売る戦略です.この場合も,Callオプションを売った際のプレミアムが含み益になります.
権利行使日に権利行使価格より原資産価格が低かった場合,Callオプションは権利行使されないため,最初に受け取ったプレミアムの利益が確定します.これは,オプションの利益なので雑所得になります.
逆に,権利行使日に権利行使価格より原資産価格が高かった場合は,Callオプションが権利行使されます.その結果,(権利行使価格+プレミアム)の価額のショートを持つことになります.
ここで,カバードコールですから,現物株を持っており,現物株はショートと相殺されます.その結果現物株は,(権利行使価格+プレミアム)-現物株の買値が譲渡所得の損益として確定します.
つまり,権利行使されなければオプションのプレミアムは雑所得で課税され,権利行使されると譲渡所得で課税されます.
節税の基本アイディア
株式の損益と株式オプションの損益の相互移転
まず.株式の損益とオプションの損益を相互に移すことから始めます.重要なことを整理すると,
- 株式
- 含み損益: 株式の買い/売りポジションを持っているとき
- 確定損益: 株式のポジションの反対売買をしたとき(買いポジションなら売却,売りポジションなら買い戻し)
- 株式オプション
- 含み損益: 株式オプションの買い/売りポジションを持っているとき
- 確定損益: 株式オプションはポジションの反対売買をしたとき(買いなら売却,売りなら買い戻し),あるいは,権利が失効したとき
- 株式オプションの売りポジションを持っているときに,権利行使された場合は株式ポジションが割り当てられる.このとき,その取得価格にはオプションのプレミアムが加味される
です.
これらをうまく利用すると,株式の確定損益とオプションの確定損益を相互に移すことができます.ポイントは,オプションでいわゆる両建てのポジションを作り,適切なオプションの権利を行使することで,含み損益が出ている株式のポジションを持つことができることです..
具体的には以下のような感じです.なお,説明の都合上,株式やオプションの価格変動と売買手数料は無視しています.
- ボックス・スプレッド(ベアプットスプレッド+ブルコールスプレッド)をつくる.ボックス・スプレッドはアービトラージを狙ったポジションです.ベアプットスプレッドとブルコールスプレッドで両建てのポジションですね.
- 原資産の価格変動によって,各スプレッドを構成するオプションの買いポジションの損益が変わります.
- 買いポジションのオプションの価値が目標の損益に相当する額になったら,権利行使をして含み損あるいは含み益をもった株式ポジションを持ちます.
- 最後に,株式のポジションと残りのオプションのポジションを解消します.
以上の結果,確定損益を株式とオプション間で移すことができます.
ただし,移せる損益の大きさは,原資産の価格変動に依ります.したがって,ボックス・スプレッドを作る際の原資産には,保有しても安心なETFかつそれなりの変動があるものを選ぶと良いと思います.例えば,SPYやACWIでしょうか.
確定損益の繰越し
次に以上のやり方を使って,確定損益を年をまたいだ繰越しの仕方を考えます.ポイントは,
- 損益は1年の合算で決まり,
- 含み損は課税されない
ということです.つまり,確定損益を含み損益にできれば良いわけですね.
つまり,上記の損益を移す方法の4で株式のポジションの反対売買をしなければ良いだけですね.
ただ,場合によっては,株のショートポジションを保有する場合があります.年越しの間,ショートポジションを維持する必要があるので,不安がある場合は別途株式オプションでヘッジした方が良いでしょう.
ヘッジは,株式オプションを使って両建にするのが良いと思います(株の両建てはできないので).ショートポジションを持っているわけですから,ロングポジションを持てば完全にヘッジできたことになります.株式オプションで株式のロングポジション相当にするためには,同じ権利行使価格のCallオプションを買って,Putオプションを売ることで実現できます.
おわりに
このテクニックが使えるのは,外国市場に上場しているデリバティブ取引が総合課税の雑所得に分類されるからですね.
もちろん税制がかわって,海外口座での株式オプションが雑所得じゃなくなるかもしれません.でも,それは税制上は改悪ではなくて改善になるのでは,と私は思います.知ろうと考えですが,たぶん国内のデリバティブと同様に分離課税になるのがありえそうなシナリオだからです.
今回は海外口座の話でしたが,実は国内口座でも株式オプションを使うことで,株式の損益を繰り越すことができます(たぶん).ただし,株式オプション(かぶオプ)を取り扱っている証券会社が,光世証券とIB証券(国内口座)と少なく,株式オプションの銘柄数,流動性にも問題があります.
海外口座は税制上は不遇ですが,うまく株式オプションを駆使すると課税を先送りができるので投資リターンが向上できる可能性が大いにあると思います.今後は,具体的なポジションのコスト例や,よりお手軽な手順の検討,売買手数料などを考慮したうえでどれくらい投資リターンを向上できるかを検証などなどをしてみたいと思います.
繰り返しにはなりますが,間違い等があればTwitter等で優しくご指摘ください.できれば,私が失敗する前に(;´Д`)
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